ホンダ(本田技研工業)は、報道関係者向けに開催した「Honda 四輪技術ワークショップ」において、2020年代後半に投入予定の次世代電動車向け革新技術を初公開しました。今回発表された技術は、ハイブリッド車とEVの両軸で展開される包括的な戦略として、自動車業界に大きなインパクトを与えています。
本記事では、ホンダが発表した次世代中型プラットフォーム、大型ハイブリッドシステム、小型EV「Super-ONE Prototype」の3つの柱となる技術について、詳しく解説していきます。
2027年に向けたホンダの電動化戦略が明らかに ホンダが目指す「2050年カーボンニュートラル」への道筋
環境と安全を最重要課題に
ホンダは2050年に向けて、以下の2つの壮大な目標を掲げています:
- 全製品・企業活動を通じたカーボンニュートラルの実現
- 二輪・四輪が関与する交通事故死者ゼロの達成
これらの目標を実現するため、2025年5月に開催されたビジネスアップデートで発表された通り、電動化・知能化を軸としたEV・ハイブリッド車の競争力強化に注力しています。
変わらない「操る喜び」の追求
電動化時代においても、ホンダが変わらずに追求し続けるのが、ドライバーとクルマが一体になるような「操る喜び」です。EV、ハイブリッド車といったパワートレーンの違いに関わらず、人中心の設計思想である「M・M思想(マン・マキシマム/メカ・ミニマム思想)」とともに、運転する人だけでなく、すべての乗員に心地よさと楽しさを提供することを目指しています。
ホンダは、このM・M思想と操る喜びを核に、四輪の提供価値として「Enjoy the Drive」を掲げています。
次世代中型プラットフォーム:軽量化と剛性を高次元で両立

2027年以降の投入を見据えた革新技術
ホンダは、2027年以降に投入する次世代ハイブリッド車の商品群において、ハイブリッドシステムとそれを搭載するプラットフォームを全方位で進化させます。次世代プラットフォームでは、高いボディー剛性と軽量化を高次元に両立させる技術や、共用率を向上させたモジュラーアーキテクチャーなど、さまざまな革新技術を組み合わせています。
新操安剛性マネジメント技術とは
次世代プラットフォームの最大の特徴は、「新操安剛性マネジメント」と呼ばれる革新的な技術です。この技術は、ダイナミクス性能を左右する操縦安定性の新たな指標として確立されました。
新操安剛性マネジメントの主な特徴:
- ボディー剛性の最適化により車体を軽量化
- コーナーリング時に車体がしなるような挙動を与えることで、タイヤへの荷重をコントロール
- 接地力を向上させ、これまでにない操縦安定性を実現
- 軽快で気持ちの良い走りを提供
なお、この技術はEV向けのプラットフォームにも採用予定となっており、ホンダの電動化戦略全体を支える基盤技術となります。
約90kgの軽量化を実現
車体構造の見直しと新たな設計手法の採用により、ハイブリッド車向けプラットフォームの重量を現行モデル比で約90kg軽量化することに成功しました。この大幅な軽量化により、走りの楽しさと燃費性能の両立を実現しています。

モジュラーアーキテクチャーで開発効率を向上
次世代プラットフォームでは、さまざまな車種において高い共用率を実現するモジュラーアーキテクチャーを採用しています。
モジュラーアーキテクチャーの特徴:
- エンジンルームやリアアンダーなどの共通部
- リアキャビンなどの独自部を作り分けて効率的に開発
- 本プラットフォームを採用する車両において60%以上の共用化を目指す
- コストを抑制しながら、個性的で多様なモデルを効率的に製造
- 開発効率と生産性が大きく向上
Motion Management Systemの採用

プラットフォームの進化に合わせて、ドライバーが思い通りにクルマを操ることができる技術として、ホンダ独自のロボティクス技術で培った姿勢制御を応用した「Motion Management System(モーション マネジメント システム)」を採用します。
さらに、現在「ACCORD(アコード)」や「PRELUDE(プレリュード)」などに採用しているコーナーリング時のスムーズな車両挙動を支援する電子制御システム「アジャイルハンドリングアシスト」に、新たにピッチ制御を加えます。
ピッチ制御とは:
ハンドル操作に合わせて減速Gをコントロールし、前荷重を増加させることで前輪のグリップ力を高める技術です。これにより、路面に左右されることなく、あらゆるシーンでドライバーの意のままのコントロールを支援し、操る喜びのさらなる拡大を目指します。
次世代大型ハイブリッドシステム:V6エンジンで30%以上の燃費向上
北米市場を見据えた戦略的開発
ホンダは、現在需要が高まっているハイブリッド車について、2027年以降に投入する次世代モデルを中心に、EV普及までの過渡期における中心的な役割を担う商品群と位置づけています。
特に、ハイブリッド車の主戦場となる北米市場では、大型車への底堅い需要があることから、力強い走行性能、牽引性能に、環境性能を兼ね備えるDセグメント以上の大型車向けハイブリッドシステムを、2020年代後半の商品投入を目指し開発しています。
新開発V6エンジンの高効率化
今回のワークショップでは、厳しい環境規制への対応を見据えた新開発のV6エンジンに加え、高効率と低コストを高次元に両立した新開発のドライブユニットやバッテリーパックを備えた、次世代の大型ハイブリッドシステムの主要技術が初公開されました。
次世代大型ハイブリッドシステムの性能目標:
- 燃費性能:低燃費領域を拡大した次世代V6エンジンと高効率なドライブユニットを組み合わせ、次世代のエネルギーマネジメント制御を適用することで、現在販売している同一セグメントのガソリンエンジン搭載車と比較して30%以上の燃費向上を目指す
- 加速性能:エンジン・各ドライブユニットの高効率化、バッテリーアシストの活用により、完成車での全開加速性能についても、現在販売している同一セグメントのガソリンエンジン搭載車と比較して10%以上の向上を目指す
環境性能と走行性能の両立
大型セグメントにふさわしいパワフルかつ上質な走りを実現するため、エンジンと電動ユニットの協調制御を最適化しています。これにより、環境規制への対応と、ユーザーが求める力強い走行性能や牽引性能を高次元で両立させることができます。
小型EV「Super-ONE Prototype」:EVと内燃機関の良さを融合
2026年から日本・英国・アジアで発売予定
ジャパンモビリティショー2025で初公開された「Super-ONE Prototype」の量産モデルは、2026年より日本を皮切りに、小型EVのニーズの高い英国やアジア各国などで発売を予定しています。
地域別車名:
- 日本・アジア大洋州:「Super-ONE」
- アジア大洋州の一部:「Honda Super-ONE」
- 英国:「Super-N」
グランドコンセプト「e: Dash BOOSTER」
Super-ONE Prototypeは、グランドコンセプトに「e: Dash BOOSTER(イー ダッシュ ブースター)」を掲げています。車内での体験を豊かにする多彩な仕掛けを採用することで、日常の移動を刺激的で気持ちの高ぶる体験へと進化させることを目指しています。
Nシリーズから進化した専用プラットフォーム

Super-ONE Prototypeは、Nシリーズとして進化させてきた軽量なプラットフォームをベースに、トレッド・フェンダーを拡幅した専用シャシーを採用することで全幅を拡大しました。
プラットフォームの特徴:
- EVの主要部品である薄型バッテリーを床下中央に配置
- 重量物の集中化と低重心化を実現
- Aセグメントの小型EVとしてクラス最軽量レベルの車両重量
- 従来のガソリン車の小型車を上回る低重心
- ドライバーの操作に対して俊敏に反応
- カーブ走行時にも安定した操舵の応答性を維持
- 意のままで安心感のあるハンドリング性能を提供
革新的な「BOOSTモード」を搭載
Super-ONE Prototypeの量産モデルには、専用開発の走行モード「BOOST(ブースト)モード」を搭載します。このモードは、EVと内燃機関車の両方の良さを融合させた画期的なシステムです。
BOOSTモードの特徴:
- 出力拡大:パワーユニットの性能を最大限に引き出す
- 仮想有段シフト制御:あたかも有段変速機を備えたエンジン車のような鋭いシフトフィーリングを演出
- アクティブサウンドコントロール:迫力あるエンジンサウンドを再現
仮想有段シフト制御の仕組み
仮想有段シフト制御では、アクセルなどの運転操作や、車速・旋回時の車両挙動などの走行状態をもとに仮想のエンジン回転数やギア段をリアルタイムに演算します。
仮想的に再現される挙動:
- 駆動力やレスポンスを最適に制御し、クルマとの一体感ある走りを実現
- 加速時のキックダウンによるショック
- フューエルカット(エンジンを保護し回転数を適切に制御するために燃料供給を一時的に停止する)の挙動
これにより、長年にわたるガソリン車開発で培った走行フィールをEVに融合させ、EVならではのスムーズでリニアな加速感と、ガソリン車ならではの走りの高揚感を合わせ持つ、Super-ONE独自の操る喜びを提供します。
ホンダの電動化戦略が示す自動車業界の未来
ハイブリッド車とEVの二刀流戦略
今回発表された技術群は、ホンダが電動化時代において「ハイブリッド車」と「EV」の両軸で展開する戦略を明確に示しています。
ハイブリッド車の位置づけ:
- EV普及までの過渡期における中心的な商品群
- 特に北米市場の大型車需要に対応
- 2027年以降の次世代モデルを中核に展開
EVの位置づけ:
- 小型EVから本格的に展開
- 2026年から日本・英国・アジアで発売
- ゼロシリーズプラットフォームによる本格展開も控える
M・M思想と操る喜びの継承
ホンダは、パワートレーンが何であれ、人中心の設計思想である「M・M思想」と「操る喜び」を追求し続けることを明言しています。これは、単なる環境対応車を作るのではなく、ドライバーと乗員すべてが楽しめるクルマづくりを続けるというホンダの強い意志の表れです。
競合他社との差別化ポイント
トヨタとの比較
トヨタも次世代ハイブリッド技術の開発を進めていますが、ホンダは以下の点で独自性を打ち出しています:
- 新操安剛性マネジメントによる走りの質感向上
- ロボティクス技術を応用したMotion Management System
- EVにおける仮想有段シフト制御の採用
欧州メーカーとの違い
欧州メーカーがEV一辺倒の戦略を見直す中、ホンダは当初からハイブリッドとEVの両軸戦略を展開しており、市場の変化に柔軟に対応できる体制を構築しています。
消費者にとってのメリット
ハイブリッド車購入を検討する方へ
次世代ハイブリッド車は以下のメリットがあります:
- 燃費性能:現行モデル比30%以上の燃費向上
- 走行性能:加速性能が10%以上向上
- 軽量化:約90kgの軽量化による軽快な走り
- 信頼性:長年のハイブリッド技術の蓄積
EV購入を検討する方へ
Super-ONEは小型EVとして以下の魅力があります:
- クラス最軽量レベルの車両重量
- 従来のガソリン車を上回る低重心
- BOOSTモードによる新しい走行体験
- 2026年から購入可能
今後の展開予定とスケジュール
2026年
- Super-ONE量産モデルの発売開始(日本・英国・アジア)
2027年以降
- 次世代中型プラットフォーム採用のハイブリッド車投入
- 次世代大型ハイブリッドシステム搭載車の北米市場投入
2050年
- カーボンニュートラルの実現
- 交通事故死者ゼロの達成
まとめ:ホンダが描く電動化時代の「操る喜び」
ホンダが発表した次世代技術は、単なる環境対応ではなく、「操る喜び」という同社の DNA を電動化時代にも継承しようとする強い意志が感じられます。
主要ポイントの再確認:
- 次世代中型プラットフォーム:新操安剛性マネジメントと約90kgの軽量化により、走りの質を向上
- 大型ハイブリッドシステム:V6エンジンで燃費30%向上、加速性能10%向上を実現
- Super-ONE:EVに内燃機関の走行フィールを融合した革新的な小型EV
ホンダは、2027年以降の次世代車投入に向けて着実に技術開発を進めており、電動化時代においても「Enjoy the Drive」を提供し続ける姿勢を明確にしています。環境性能と走行性能を高次元で両立させる技術開発は、自動車業界全体に大きな影響を与えることが期待されます。
今後も、ホンダの次世代技術の続報に注目していく必要があるでしょう。
参考資料:

