ホンダの米国レース部門「Honda Racing Corporation USA(HRC US)」は2026年10月29日、パスポートの名を冠した新しいトロフィートラック「Honda Passport Baja Spec(パスポート バハ スペック)」を発表しました。2.4L V6ツインターボに800Vのハイブリッドを組み合わせ、システム合計で1,300馬力を超える、砂漠レースの最上位クラス初のハイブリッド車です。
ホンダは2025年から、パスポートの姿をしたレーストラックでメキシコの砂漠レースに挑んできました。今回の新型はその経験をもとに、F1やIMSAで培った技術を詰め込んで一から作り直したマシンです。
実車は2026年11月3日〜6日にラスベガスで開かれる「SEMAショー2026」のHRCブースで一般初公開され、レースデビューは2027年6月のバハ500の予定です。この記事では、新型パスポート Baja Specの中身、スペック、前身のトラックや市販のパスポートとの違い、参戦スケジュール、日本との関わりまで、わかりやすくまとめました。


そもそも新型パスポート Baja Specとは?
パスポート Baja Specは、メキシコ・バハカリフォルニア半島を舞台にした砂漠レース「SCORE World Desert Championship(スコア ワールド デザート チャンピオンシップ)」の最上位クラス「トロフィートラック」に参戦するための専用マシンです。外観は市販SUVの「パスポート」をモチーフにしていますが、中身は市販車とはまったく別物の競技車両で、一般に販売される車ではありません。
開発したのは、ホンダの米国のレース部門であるHRC US(本拠地はカリフォルニア州サンタクラリタ)です。車体と駆動系はトロフィートラックの名門コンストラクター「Mason Motorsports(メイソン・モータースポーツ)」と共同で開発し、ドライバーにはバハ1000で2度の総合優勝経験を持つブライス・メンジーズ選手を起用しました。メンジーズ選手は自身のチーム「Menzies Motorsports」として参戦します。
HRC USは、トロフィートラッククラスにハイブリッド車が参戦するのは初めてだとしています。目標は、2027年に60回目の節目を迎えるバハ1000での総合優勝です。HRC USのケルビン・フー社長は、このマシンを「ソフトウェア・デファインド・ビークル」だと表現しています。
新型パスポート Baja Specの特徴まとめ
公式に発表された主な特徴は以下の通りです。
- パワートレイン:2.4L V6ツインターボ+800Vハイブリッド。合計1,300馬力超
- エンジンの出どころ:アキュラのIMSA用プロトタイプ「ARX-06」のV6がベース
- バッテリー:F1由来のパウチ型セルをカーボンケースに収めたHRC US内製品
- 駆動方式:メイソン製5速トランスミッションと独自の4WD(AWD)
- 制御:前後のブレーキ・バイ・ワイヤ、適応型トラクションコントロール、AIによる出力配分
- デビュー:2026年11月のSEMAショーで初公開、2027年6月のバハ500で実戦デビュー
① IMSA譲りのV6ツインターボをミッドシップに搭載
エンジンは排気量2.4Lのオールアルミ製V6ツインターボで、アキュラの耐久レース用プロトタイプ「ARX-06」に積まれているユニットをベースにしています。ARX-06はデイトナ24時間やセブリング12時間で勝利を挙げたマシンで、その心臓部を砂漠用に仕立て直した形です。搭載位置はキャビンの後ろで、いわゆるミッドシップの配置になります。

② 800Vハイブリッドで合計1,300馬力超
エンジンにはHRC USが自社で開発した800Vのハイブリッドシステムを組み合わせ、システム合計の最高出力は1,300馬力を超えます。HRC USは、現在のトロフィートラックの主流である9L級の自然吸気V8を上回る出力だとしています。なお、エンジン単体の出力、モーターの出力、バッテリーの容量は公表されていません。
③ F1由来のバッテリーをクリーンルームで組み立て
バッテリーは軽量化を重視した専用品で、設計から製造までHRC USが手がけています。セルには一世代前のF1と同じタイプのパウチ型セルを使い、カーボン製のケースに収めました。組み立ては本社に新設したクリーンルームで行っています。
④ AIによる出力配分など先進の電子制御
前後の車軸それぞれにブレーキ・バイ・ワイヤを採用し、適応型のトラクションコントロールと、AIを使ったパワーの配分制御を組み合わせています。HRC USによれば、いずれもトロフィートラッククラスでは初めての装備です。レース中でもソフトウェアの調整で特性を変えられる点が、従来のトロフィートラックとの大きな違いです。
⑤ 重量バランスを考えた燃料タンクと補器類の配置
燃料は容量145ガロン(約549L)のカーボン・ケブラー製セーフティ燃料セルに積み、キャビンの中央に置きました。燃料が減っても前後の重量配分が変わりにくいようにするためです。液体のタンクやバッテリーなど重さが変わらない部品は後ろ寄りにまとめ、車体のバランスを整えています。
新型パスポート Baja Specのパワートレインとスペック
| 項目 | パスポート Baja Spec |
|---|---|
| エンジン | 2.4L V6ツインターボ(オールアルミ) アキュラ ARX-06用がベース |
| 搭載位置 | キャビン後方(ミッドシップ) |
| ハイブリッド | 800Vハイブリッド(HRC US内製) |
| システム最高出力 | 1,300馬力超 |
| バッテリー | F1由来のパウチ型セル、カーボン製ケース(容量は未発表) |
| トランスミッション | メイソン製 5速(エンジンの前に搭載) |
| 駆動方式 | AWD(後輪は左右独立のドライブシャフト、前輪はポータルギア) |
| シャシー | Mason Motorsports Gen 2 AWDシャシー+HRC専用リアフレーム |
| サスペンション | ロングトラベル、各輪にFOX製ダンパー2本 |
| タイヤ | TOYO TIRES |
| 燃料セル | 145ガロン(約549L)カーボン・ケブラー製 |
駆動系も独特です。トランスミッションはエンジンの前に置かれ、後輪へはデフ(リングギアとピニオン)を使わず、左右独立した2本のドライブシャフトと、各輪のスパイラルベベルギアで力を伝えます。前輪はメイソン製のデフからハブのポータルギアを介して駆動し、最低地上高を稼いでいます。ボディサイズや車両重量は公表されていません。

砂漠を走る造形!新型パスポート Baja Specの外装(エクステリア)
フロント・サイド
ボディはカーボン製のパネルで、パスポートらしい角ばったフロントマスクと横長のグリルを再現しています。デザインには数値流体力学(CFD)を使い、前輪の後ろに深いサイドチャンネルを設けて空気の流れを整えました。足元は大径のオフロードタイヤとロングトラベルのサスペンションで、市販のパスポートとはまったく違う迫力です。

リア・冷却
リアには高い位置にフィン付きの排気口を設け、キャビンの形を工夫したトンネルで後方の低い位置に置いたクーラー(ラジエーター)へ風を導きます。エンジンをキャビンの後ろに積むミッドシップならではの冷却レイアウトです。
新型パスポート Baja Specの内装(コックピット)
公開された写真では、2人乗りのコックピットにバケットシートとロールケージが組まれ、カーボン調のダッシュボードに複数のディスプレイとスイッチパネルが並んでいます。ステアリングにも多くのボタンが付き、操作系はレーシングカーそのものです。

前身のBaja Passportレーストラックとの違いを比較
ホンダは2025年3月の「ミント400」で、パスポートの姿をしたレーストラックを初めて実戦に投入しました。当時のトラックと今回の新型を、公式に発表された内容で比べると次のようになります。
| 項目 | 2025年のBaja Passport | 新型 Baja Spec |
|---|---|---|
| エンジン | 3.5L V6ツインターボ「HR35TT」 | 2.4L V6ツインターボ(ARX-06ベース) |
| ハイブリッド | なし | 800Vハイブリッド |
| 最高出力 | 約550馬力 | 1,300馬力超(システム合計) |
| 駆動方式 | 2WD | AWD |
| 主なクラス | トロフィートラック 2WD など | トロフィートラック(最上位) |
2025年のトラックは、市販の3.5L V6とブロックやシリンダーヘッドを共有するエンジンで、2WDのクラスを戦っていました。新型は排気量を小さくした一方で、ハイブリッドとAWDで出力を2倍以上に高め、総合優勝を争う最上位クラスへとステップアップします。2025年の成績は、バハ500でクラス2位(総合11位)、バハ1000ではポールポジションから首位を走りながら、燃料系のトラブルで途中リタイアでした。
市販の新型パスポートとの違いと日本導入
レーストラックのモチーフになった市販のパスポートは、米国アラバマ工場で生産されるミドルサイズSUVです。ホンダは2026年3月5日、米国生産の「PASSPORT TRAILSPORT ELITE(パスポート トレイルスポーツ エリート)」を、国土交通省が新しく設けた米国製乗用車の認定制度を使って日本に導入すると発表しました。2026年後半から順次発売するとしています。
| 項目 | 市販パスポート TRAILSPORT ELITE(米国仕様) | パスポート Baja Spec |
|---|---|---|
| エンジン | 3.5L V6 | 2.4L V6ツインターボ+ハイブリッド |
| 最高出力 | 285hp | 1,300馬力超 |
| トランスミッション | 10速AT | 5速(メイソン製) |
| 駆動方式 | 4WD | AWD |
| 日本での販売 | 2026年後半から順次(価格は未発表) | 販売なし |
共通しているのは名前とデザインのモチーフくらいで、中身は別物です。日本仕様の発売日と価格は、記事執筆時点で公式には発表されていません。
HRCのSEMA出展とHRCパフォーマンスパーツ
SEMAショー2026のHRCブース(セントラルホール #24789)では、パスポート Baja Specのほか、新しい「パスポート TrailSport Baja Chase(バハ チェイス)トラック」など、HRCのコンセプトカーやレース車両が10台展示されます。
あわせてHRC USは、市販車向けの「HRCパフォーマンスパーツ」を初めて発表しました。米国のホンダ・アキュラ販売店と通販で2027年3月から販売する予定で、主な内容は次のとおりです。
- パスポート(2026年モデル以降)・パイロット(2023年モデル以降)用:Titan 7と開発した18×8インチの鍛造オフロードホイール、Borlaと開発したステンレス製キャットバックマフラー
- シビック TYPE R(2023年モデル以降)・インテグラ タイプS(2024年モデル以降)用:2elle-engineeringと開発した19×10インチの鍛造ホイール
これらのパーツの日本での販売は発表されていません。なお、ホンダは1962年に2台の「CL72」でティファナからラパスまでを39時間56分で走破して以来、バハと深い関わりがあり、四輪でも2015年以降に17回のクラス優勝(バハ1000で4勝、バハ500で5勝を含む)を挙げています。
新型パスポート Baja Specのデビューはいつ?
公式に発表されたスケジュールは次のとおりです。
- 2026年10月29日:HRC USが発表
- 2026年11月3日〜6日:SEMAショー2026(米国ラスベガス)で一般初公開
- 2027年6月2日〜6日:SCORE バハ500で実戦デビュー
- 2027年:60回目のバハ1000で総合優勝を目指す
パスポートに興味がある人がチェックしたい3つのポイント
1つ目は、Baja Specは市販されないということです。展示やレースで見ることはできても購入はできないので、日本で手に入るのは、2026年後半から順次発売とされている市販のパスポート TRAILSPORT ELITEになります。
2つ目は、日本仕様のパスポートの価格と発売日がまだ発表されていないことです。日本で売られるのは上級グレードのTRAILSPORT ELITEだけなので、価格の発表を待ちましょう。気になる方は販売店で最新の情報を確認しておくとよいでしょう。
3つ目は、HRCパフォーマンスパーツの扱いです。米国では2027年3月に販売が始まりますが、シビック TYPE R用のホイールなどの日本での販売は未定です。
新型パスポート Baja Specに関するよくある質問(FAQ)
Q. パスポート Baja Specは市販されますか?
A. 市販の予定はありません。SCORE World Desert Championshipのトロフィートラッククラスに参戦するレース専用車両です。
Q. 実車はどこで見られますか?
A. 2026年11月3日〜6日に米国ラスベガスで開かれるSEMAショー2026のHRCブースで一般初公開されます。日本での展示は発表されていません。
Q. 市販のパスポートは日本で買えますか?
A. ホンダは2026年3月5日に、パスポート TRAILSPORT ELITEを日本に導入し、2026年後半から順次発売すると発表しています。価格と正式な発売日は未発表です。
まとめ:パスポート Baja Specはホンダが総合優勝を本気で狙う1,300馬力のハイブリッド
新型パスポート Baja Specは、アキュラ ARX-06譲りの2.4L V6ツインターボに800Vハイブリッドを組み合わせ、1,300馬力超を発揮するトロフィートラックです。F1由来のバッテリーやAIによる出力配分など、ホンダが世界のレースで培った技術が詰め込まれています。
2025年は2WDの前身トラックでクラス2位を獲得しましたが、今回はAWDとハイブリッドで最上位クラスへ挑み、2027年のバハ1000で総合優勝を目指します。日本では市販のパスポート TRAILSPORT ELITEの発売も控えており、砂漠での活躍がパスポートの名前を広めるきっかけになりそうです。
最新情報が入り次第、随時更新していきます。

