引っ越しをしたとき、住民票や運転免許証の住所変更はしても、車検証の住所変更を忘れてしまう方は少なくありません。「車検証の住所変更をしないと罰金50万円!」という情報を見て、不安になっている方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、車検証の住所変更を怠った場合の実態、実際に罰金を取られた人の事例、そして忘れていた場合の対処法について、専門的な視点から詳しく解説します。
1. 車検証の住所変更は法律で定められた義務
法的根拠と罰則規定

車検証の住所変更は、道路運送車両法第12条により法律で義務付けられています。
道路運送車両法 第12条(変更登録)
自動車の所有者は、登録されている型式、車台番号、原動機の型式、所有者の氏名若しくは名称若しくは住所又は使用の本拠の位置に変更があったときは、その事由があった日から15日以内に、国土交通大臣の行う変更登録の申請をしなければならない。
道路運送車両法
そして、道路運送車両法第109条第2項では、この義務を怠った場合の罰則が規定されています。
罰則規定:
- 所有者の変更登録を怠った場合:50万円以下の罰金(第109条第2項)
- 使用者の記載変更を怠った場合:30万円以下の罰金(第110条第1項)
「15日以内」の起算点はいつから?
15日以内という期限は、**住民票の異動日(転入届を提出した日)**から数えます。実際に引っ越しをした日ではなく、役所に転入届を出した日が基準となります。
2. 実際に罰金を取られた人はいるのか?
結論:「単なる忘れ」で罰金を取られた人はほぼいない
インターネット上の相談サイトやYahoo!知恵袋などを調査した結果、「住所変更を忘れていただけ」で罰金を科された事例は確認できませんでした。
国土交通省の見解によると、法律上は罰金規定があるものの、実際の行政運用では**「行政指導・届出の催告」で済ませるケース**がほとんどです。
参考:Yahoo!知恵袋
罰金が科されるのは「悪質なケース」のみ
実際に罰金が科されるのは、以下のような意図的・悪質なケースに限られています。
ケース1:車庫飛ばし(虚偽住所登録)
自動車税が安い地域の住所で虚偽登録するなど、意図的に虚偽の住所を届け出た場合。愛知県警では2023年に虚偽住所登録による車庫飛ばしで罰金20万円の略式命令が科された事例があります。
ケース2:行政指導の無視
行政から何度も住所変更の催告を受けたにもかかわらず、長期間(数年単位)放置し続けた場合。
ケース3:税金逃れ目的の虚偽登録
実際の居住地と異なる住所で登録し、自動車税を逃れようとした場合。北海道では税逃れ目的で罰金30万円が科された事例があります。
一般的な対応の流れ
住所変更を忘れていた場合、行政の対応は以下のように段階的です。
- 第一段階:行政からの通知書送付「住所変更をしてください」という催告通知が届く
- 第二段階:再度の催告数ヶ月後に再度通知が届く
- 第三段階:直接訪問または電話での指導それでも対応しない場合、職員からの直接連絡
この段階で誠実に対応すれば、罰金が科されることはまずありません。
3. 住所変更を怠ると起こる5つの実害
罰金よりも深刻なのは、日常生活で起こる実害です。

リスク1:自動車税の納付書が届かず延滞金が発生
自動車税の納付通知書は、車検証に記載された住所に送られます。住所変更をしていないと旧住所に届き、納税を忘れて延滞金が発生するリスクがあります。
郵便局の転送サービスは通常1年間しか有効ではないため、1年以上経過すると通知が届かなくなります。
実際のケース:
「引っ越しから5年経っていたため、自動車税の納付書が旧住所に送られ続けていた。延滞金が発生し、最終的に財産差し押さえの警告を受けた」
リスク2:リコール通知が届かず安全上の問題
車両に不具合が見つかった場合、メーカーからリコール通知が車検証の住所に送られます。住所変更をしていないと通知が届かず、重大な安全上の問題を放置することになります。
リコール対応は無料で行われますが、通知が届かなければ対応のしようがありません。
リスク3:任意保険が適用されない可能性
自動車保険の契約内容と車検証の住所が異なると、事故時に保険金が下りない可能性があります。
保険会社によっては、住所変更時に新住所が記載された車検証のコピー提出を求められる場合があります。手続きを怠ると、最悪の場合「契約内容と実態が異なる」として保険金の支払いが拒否されることもあります。
リスク4:車検がスムーズに受けられない
車検時に住所が異なることが発覚すると、追加書類の提出が必要になります。
複数回引っ越しをしている場合は、住所の履歴を証明するために「戸籍の附票」などの書類が必要になり、手続きがより複雑になります。
リスク5:警察の職務質問で不審に思われる

運転中の職務質問で、車検証と免許証の住所が異なると不審に思われ、詳しく事情を聞かれることがあります。
単なる手続き忘れでも、余計な時間を取られたり、不必要な疑いをかけられたりする可能性があります。
4. 車検証の住所変更の手続き方法

手続き場所
普通自動車:管轄の運輸支局(陸運局)
軽自動車:管轄の軽自動車検査協会
管轄は新住所を基準に決まります。全国の運輸支局・軽自動車検査協会は、国土交通省のウェブサイトで確認できます。

必要書類

普通自動車の場合
- 車検証(原本)
- 住民票(発行から3ヶ月以内、マイナンバー記載なし)
- 車庫証明書(発行から1ヶ月以内)※
- 申請書(第1号様式)
- 手数料納付書
- 自動車税申告書
- 委任状(代理人が手続きする場合)
- ナンバープレート(管轄変更の場合)
※車庫証明が必要な地域:
- 県庁所在地
- 人口10万人以上の市
- 東京都・大阪府の全域
- その他公安委員会指定地域
軽自動車の場合
- 車検証(原本)
- 住民票または印鑑登録証明書(コピー可)
- 自動車検査証記入申請書(軽第1号様式)
- 委任状(代理人が手続きする場合)
- ナンバープレート(管轄変更の場合)
注意:軽自動車の車庫証明(保管場所届出)は、登録後に警察署へ届け出ます。普通車とは順序が逆です。
手続きの流れ
- 車庫証明の取得(普通車で必要な場合)
管轄の警察署で申請、約1週間後に交付 - 必要書類の準備
住民票の取得など - 運輸支局/軽自動車検査協会での手続き
- 申請書類に記入
- 窓口に書類を提出
- 手数料の支払い
- 新しい車検証の交付
- ナンバープレートの交付(管轄変更の場合)
旧ナンバーを返却し、新ナンバーを取り付け - 車庫届の提出(軽自動車で必要な場合)
変更登録後15日以内に警察署へ届出
費用
| 項目 | 普通自動車 | 軽自動車 |
|---|---|---|
| 申請手数料 | 350円 | 無料 |
| 車庫証明費用 | 2,100円~2,500円 | 500円(届出のみ) |
| ナンバープレート代 | 1,450円~ | 1,440円~ |
| 合計 | 約4,000円~ | 約2,000円~ |
代行を依頼する場合:
- ディーラー:5,000円~15,000円
- 行政書士:8,000円~15,000円
オンライン手続き(OSS)も可能
普通自動車の場合、「自動車保有関係手続のワンストップサービス(OSS)」を利用すれば、自宅からオンラインで手続きが可能です。
必要なもの:
- マイナンバーカード
- ICカードリーダー
- インターネット環境
メリット:
- 運輸支局に行く必要がない
- 24時間いつでも申請可能
- ナンバープレート交換は次回車検時でOK
5. 15日を過ぎてしまった場合の対応

「気づいたらすぐに手続き」が鉄則
15日の期限を過ぎても、手続き自体は通常と同じです。運輸支局で「期限を過ぎているから受け付けません」と言われることはありません。
期間別の対処法
1ヶ月以内の場合
通常の手続きで問題なし。追加書類は基本的に不要です。
1ヶ月~1年の場合
基本的には通常の手続きで対応可能。複数回引っ越している場合は「戸籍の附票」が必要になることがあります。
1年以上の場合
「戸籍の附票」の準備を推奨します。住民票だけでは住所の繋がりが証明できない場合があるためです。
戸籍の附票とは:
その人の住所変遷を記録した公的書類
- 取得場所:本籍地の市区町村役場
- 手数料:300円程度
- 有効期限:発行から3ヶ月以内
行政からの通知が届いた場合
市区町村や運輸支局から「住所変更をしてください」という通知が届いた場合は、速やかに対応してください。
この段階で誠実に対応すれば、罰金が科されることはまずありません。逆に無視し続けると、悪質と判断されるリスクが高まります。
罰金を回避する3つのポイント
- 誠実な対応
行政からの連絡には必ず応じる - 迅速な手続き
気づいた時点ですぐに手続きを開始 - 記録を残す
手続きの経過や行政とのやり取りを記録
6. よくある質問と回答
- 実家の住所のままにしておくのはダメ?
-
法律上は違反です。「使用の本拠の位置」(日常的に車を保管している場所)が変わった場合、15日以内に変更する義務があります。
実家のままにしておくと:
- 自動車税の通知が実家に届く
- リコール通知が届かない
- 保険金が下りない可能性
などの実害が発生します。
- 車検のタイミングで変更してもいい?
-
法律上は15日以内に変更する義務がありますが、実務上は車検と同時に変更する人も多いです。
ただし、車検時に住所の繋がりを証明する追加書類(戸籍の附票など)が必要になる場合があります。
- 引っ越しから5年経っているけど大丈夫?
-
すぐに手続きをしてください。5年経過していても、誠実に対応すれば罰金が科されることはまずありません。
ただし、戸籍の附票など追加書類が必要になる可能性が高いです。
- 軽自動車も同じ?
-
基本的には同じです。軽自動車も道路運送車両法の適用を受けるため、15日以内の住所変更が義務付けられています。
ただし:
- 手続き場所が「軽自動車検査協会」
- 申請手数料が無料
- 車庫届は事後届出(登録後に警察へ)
という違いがあります。
- 住所変更を代行してもらえる?
-
ディーラー、行政書士、車検代行業者などに代行を依頼できます。
費用相場:
- ディーラー:5,000円~15,000円
- 行政書士:8,000円~15,000円
- 車検代行業者:5,000円~10,000円
平日に時間が取れない方にはおすすめです。
- 自動車税を払っていないけど住所変更できる?
-
住所変更の手続き自体は可能ですが、自動車税を滞納していると車検が受けられません。
住所変更と合わせて、速やかに自動車税を納付してください。延滞金が発生している場合もあります。
まとめ
重要ポイント
- 車検証の住所変更は法律で義務付けられている(15日以内)
- 「単なる忘れ」で罰金を取られることはほぼない
- 悪質なケース(虚偽登録・行政指導無視)のみ罰金が科される
- 罰金より実害の方が深刻(税金・保険・リコール通知など)
- 気づいたらすぐに手続きすれば問題なし
今すぐやるべきこと
車検証の住所変更を忘れていた方は:
- 住民票を取得する
- 車庫証明を申請する(必要な場合)
- 運輸支局/軽自動車検査協会で手続き
- 車庫届を提出する(軽自動車で必要な場合)
「いつかやろう」と後回しにせず、今すぐ手続きを開始することをおすすめします。
この記事が、車検証の住所変更に関する不安を解消する助けになれば幸いです。法律上の義務ではありますが、誠実に対応すれば過度に心配する必要はありません。気づいた時点で速やかに手続きを行いましょう。
参考リンク:

