2025年10月29日、ジャパンモビリティショー2025において、中国の大手電気自動車メーカーBYDが初の軽自動車規格EV「RACCO(ラッコ)」を世界初公開しました。この車両は、BYDとして初めて海外市場専用に開発されたモデルであり、日本市場への本気度を示す一台といえるでしょう。2026年夏の発売が予定されているこの軽EVは、スライドドア装備のスーパーハイトワゴンとして、日本の軽自動車市場に新たな選択肢をもたらします。
本記事では、実際に展示車両を見た詳細な情報をもとに、BYD ラッコの魅力、優れている点、そして気になる点まで徹底的に解説していきます。
BYD ラッコとは?日本専用設計の軽EVの全貌

日本市場のために開発された特別なモデル
BYD ラッコは、同社が初めて「海外専用モデル」として開発した車両です。中国や他の市場での販売は予定されておらず、完全に日本市場のニーズに合わせて設計されています。これは海外自動車メーカーとしては極めて異例の取り組みであり、BYDの日本市場に対する強い意欲が感じられます。
スーパーハイトワゴン×スライドドア×EVの革新的組み合わせ
現在の日本市場には、日産サクラやホンダN-ONE e:といった軽乗用EVが存在しますが、スライドドアを備えたスーパーハイトワゴンタイプの軽EVはまだ存在していません。ラッコが予定通り2026年夏に発売されれば、日本初のスライドドア装備軽EVとして市場に登場することになります。
日本で最も人気のある軽自動車カテゴリーであるスーパーハイトワゴン(ホンダN-BOXは2015年から2024年まで10年連続軽自動車販売台数1位を達成)とEVを組み合わせたこのコンセプトは、多くの消費者が待ち望んでいたものといえるでしょう。

BYD ラッコの主要スペック

ボディサイズ・基本諸元
- 全長:3,395mm
- 全幅:1,475mm
- 全高:1,800mm
- ホイールベース:詳細未発表
- 乗車定員:4名
- 駆動方式:前輪駆動(FWD)
軽自動車規格にぴったりと収まるボディサイズでありながら、全高1,800mmというスーパーハイトワゴンならではの室内空間を確保しています。
パワートレイン
- モーター出力:64ps(47kW)
- 最大トルク:18.4kgm(180Nm)
- バッテリータイプ:リン酸鉄リチウムイオンバッテリー(LFP)「ブレードバッテリー」
軽自動車の自主規制に合わせて最高出力は64psに抑えられていますが、最大トルクは18.4kgmと余裕のある設定。EVならではのスムーズで力強い加速が期待できます。
バッテリー容量と航続距離
BYD ラッコには2種類のバッテリーグレードが用意されます:
スタンダードモデル
- バッテリー容量:25kWh(推定値:実際には30kWhの可能性も)
- 航続距離:240km(WLTC推定)
- 想定価格:249万円
ロングレンジモデル
- バッテリー容量:40kWh(推定値:実際には42kWhの可能性も)
- 航続距離:370km(WLTC推定)
- 想定価格:299万円
東福寺社長は「ロングレンジはファーストカーとしても選んでほしい」とコメントしており、実用性の高い航続距離が確保されています。
外装(エクステリア)デザインの魅力
フロントデザイン

BYD ラッコのフロントマスクは、EVならではの先進的なデザインを採用しています。エンジン車のように大きな冷却用グリルが不要なため、開口部を最小限に抑えて空力性能を向上させています。
- LEDヘッドライト:高品質なLEDヘッドライトを標準装備
- シャープなデザイン:他のどのメーカーとも異なる独自の顔つき
- 質感の高さ:実車を見た印象では、国産軽自動車を上回る質感
実際にジャパンモビリティショーで車両を見た多くの来場者からは、「クオリティ感が高い」「日本の軽自動車より質感が良い」という声が上がっています。
サイドビュー

- スライドドア:両側パワースライドドア装備(運転席スイッチ操作可能)
- フラットなボディサイド:室内空間を最大限確保するスクエアなデザイン
- フローティングルーフ:Dピラーを黒く塗装し、ルーフが浮いているように見えるデザイン処理
- 充電ポート:フロント側に配置
- タイヤサイズ:165/65R15(N-BOXは165/55R15と比較して扁平率が高く乗り心地重視)
ホイールは10本スポークのアルミホイールを装備し、デザイン性と質感を両立しています。
リアデザイン

- 一文字テールランプ:横一線に繋がったLEDテールランプ
- BYDロゴ:リアゲートにブランドロゴを配置
- フラットなバックドア:荷室空間を最大化する垂直に近いゲート設計
- 下まで大きく開くゲート:荷物の積み降ろしがしやすい設計
スクエアなリアデザインは、実用性とデザイン性を高次元で融合させています。
内装(インテリア)デザインの魅力
インテリアの第一印象
実車を見た第一印象は「驚くほど質感が高い」という点です。アイボリーとブラックのツートンカラーで統一された室内は、上質で明るい印象を与えます。
コックピット周り
- 12.3インチディスプレイ:大型タッチスクリーンを中央に配置
- デジタルメーター:液晶パネルによるフルデジタルメーター
- ステアリングホイール:各種スイッチを配したマルチファンクションステアリング
- シフター:コンパクトで可愛らしいデザインのシフトレバー
- エアコン操作系:物理ボタンで操作性を確保
- Android Auto / Apple CarPlay:スマートフォン連携機能標準装備
細部の作り込み
日本の軽自動車を徹底研究した形跡が随所に見られます:
- エアコン吹き出し口の調整つまみ:ピンク色のアクセントカラーで遊び心を演出
- カップホルダー:運転席と助手席それぞれに配置
- 収納トレー:センターコンソールに実用的な収納スペース
- スライドドア開閉スイッチ:運転席から後席ドアを操作可能
シートの快適性
フロントシート
- パワーシート:電動調整機能を装備(軽自動車では珍しい装備)
- ツートンカラー:アイボリーとブラックの上質な配色
- ふわっとした座り心地:クッション性に優れたシート設計
- アームレスト:運転席側に装備
リアシート
- 広々とした足元空間:EVならではのフラットフロアで開放感抜群
- ゆとりある座面と背もたれ:長時間の移動でも疲れにくい設計
- シートバックテーブル:前席背面に折りたたみ式テーブルを装備
- 買い物フック:コンビニ袋などを掛けられるフック
- アシストグリップ:乗降時に便利なグリップ装備
- サンシェード:後席窓に日除けを装備
収納スペースの充実
- 助手席下トレー:フラットフロアを活かした収納スペース
- ドアポケット:各ドアに実用的な収納
- シートバックポケット:前席背面にポケット装備
遊び心のあるディテール
Bピラーには可愛らしいラッコのイラストが描かれており、車名にちなんだ遊び心のあるデザインが施されています。このような細かな配慮が、ラッコの魅力を高めています。
BYD ラッコの優れている点
1. 唯一無二のパッケージング
スーパーハイトワゴン×スライドドア×EVという組み合わせは、現時点で国内に存在しない唯一無二のパッケージです。日本で最も人気のある軽自動車ボディタイプにEVの利点を組み合わせることで、多くのユーザーにとって魅力的な選択肢となります。
2. 実用的な航続距離
ロングレンジモデルで370km(推定)という航続距離は、日常使いはもちろん、週末のレジャーにも十分対応できる実用性を備えています。東京から箱根や御殿場程度の距離であれば、充電の心配なく往復できるレベルです。
3. EVならではの走行性能
最大トルク18.4kgmという数値は、軽自動車としては非常に余裕のある設定です。EVならではの特性として:
- スムーズな加速:発進から滑らかに加速
- 静粛性:エンジン音がないため車内が静か
- パワフルな中速域:追い越しや合流もストレスなく行える
4. 低重心による優れた操縦安定性
バッテリーを床下に配置することで低重心化を実現。さらに、軽自動車では珍しい4輪ディスクブレーキを採用することで、安定した制動性能を確保しています。
5. 高い安全性能
ブレードバッテリーの安全性
- リン酸鉄リチウムイオンバッテリー採用で高い安全性
- 釘刺し試験でも発火・爆発しない高い耐久性
- バッテリー自体が構造部材となるCTC(Cell to Chassis)構造により車体剛性も向上
先進運転支援システム(ADAS)
- BSM(ブラインドスポットモニター):死角の車両を検知
- PVM(パノラミックビューモニター):360度カメラで周囲を確認
- ACC(アダプティブクルーズコントロール):高速道路での運転を支援
- ナビゲーションパイロット:同一車線内走行支援
- 自動緊急ブレーキシステム:衝突回避・軽減をサポート
6. V2L/V2H機能
- V2L(Vehicle to Load):アウトドアや災害時に電源として活用可能
- V2H(Vehicle to Home):停電時に家庭へ電力供給が可能
この機能により、ラッコは単なる移動手段ではなく、「動く蓄電池」としての価値も提供します。
7. ランニングコストの低さ
EVならではのメリットとして:
- 燃料費:ガソリン車の約1/3のコスト
- メンテナンス費:エンジンオイル交換不要、消耗品が少ない
- 税金:自動車税が安い
長期的に見れば、初期費用の差を十分に回収できるコストパフォーマンスを発揮します。
8. 圧倒的な質感の高さ
実車を見た多くの関係者が驚いたのが、その質感の高さです。国産軽自動車と比較しても遜色なく、むしろ上回る部分も多いという評価が多数聞かれました。
9. 2グレード展開による選択肢
スタンダードモデルとロングレンジモデルの2グレード展開により、ユーザーのライフスタイルに合わせた選択が可能:
- 近所の買い物や通勤メイン:スタンダードモデルで十分
- 週末のドライブも楽しみたい:ロングレンジモデルがおすすめ
10. 充電性能への期待
BYDは「スーパーeプラットフォーム」で超高速充電技術を持っています。ラッコにも優れた充電性能が期待されており:
- 予想される急速充電性能:スタンダード最大90kW、ロングレンジ最大120kW程度
- 普通充電:6kW対応(推定)
これが実現すれば、国産軽EV(日産サクラ:最大30kW、ホンダN-VAN e::最大50kW)を大きく上回る利便性を提供できます。
BYD ラッコの残念な点・気になる点
1. 価格の不透明感
2025年11月時点では、まだ正式な価格が発表されていません。想定価格は:
- スタンダードモデル:249万円
- ロングレンジモデル:299万円
しかし、これはあくまで推定値であり、実際の価格次第では市場の反応が大きく変わる可能性があります。
価格に関する懸念点
- 日本専用開発のため、コスト回収の必要性がある
- 他のBYD車種のようなグローバル展開による規模のメリットがない
- N-BOXの価格帯(170万円~250万円程度)と比較して割高になる可能性
補助金なしでエンジン軽自動車と真っ向勝負できる価格設定が望まれます。
2. 充電インフラへの依存
EVである以上、充電環境が整っていないと利便性が大きく損なわれます:
- 自宅充電環境がない場合:利便性が大幅に低下
- 急速充電器の混雑:休日の高速道路SA/PAでは待ち時間が発生する可能性
- 充電時間:ガソリン給油と比較すると時間がかかる
特に集合住宅に住む方にとっては、充電環境の確保が課題となります。
3. 航続距離への不安
スタンダードモデルの240km(推定)という航続距離は、日常使いには十分ですが:
- 冬季の航続距離低下:寒冷地ではバッテリー性能が低下
- 高速道路走行:市街地走行より電費が悪化
- エアコン使用:暖房使用時は特に航続距離が短くなる
実質的な航続距離は、条件次第で大きく変動する可能性があります。
4. 販売・サービス網の課題
BYDの国内販売拠点は約80店舗と、国産メーカーと比較すると少数です:
- 試乗できる店舗が限られる:実車を見る機会が少ない
- アフターサービスの不安:メンテナンス体制が十分か不明
- リセールバリュー:中古車市場での評価が未知数
5. BYDブランドへの認知度
日本市場では、まだBYDブランドの認知度が高いとは言えません:
- 中国メーカーへの不安感:品質や耐久性への懸念を持つ消費者も
- 実績不足:日本での乗用車販売実績が浅い
- ブランドイメージ:高級感や信頼性で国産メーカーに劣る印象
6. バッテリー劣化への懸念
リチウムイオンバッテリーは経年劣化が避けられません:
- 航続距離の低下:数年後には新車時より短くなる可能性
- バッテリー交換費用:高額な交換費用がかかる可能性
- 保証内容:バッテリー保証の詳細が未発表
BYDのブレードバッテリーは耐久性が高いとされていますが、長期的な実績データは今後の評価待ちです。
7. CEV補助金の支給額
BYDのEV車種に対するCEV補助金は、国産車と比較して厳しめの設定になる傾向があります:
- 補助金額が少ない可能性:実質購入価格が想定より高くなる
- 補助金制度の変更リスク:国の政策変更で補助金額が変動
8. リアシートスライド機能の有無
詳細スペックがまだ完全に公開されていないため、リアシートのスライド機能の有無が不明です。日本の軽スーパーハイトワゴンでは標準的な装備ですが、もし省略されていれば実用性で劣る可能性があります。
9. 寒冷地での性能
EVは一般的に寒冷地での性能低下が課題となります:
- バッテリー性能の低下:低温環境で航続距離が大幅に短縮
- 暖房使用による電力消費:エンジンの廃熱を利用できないため電力消費が大きい
- 充電速度の低下:低温時は充電速度も遅くなる
BYDはバッテリーマネジメントシステムとヒートポンプシステムを搭載しているとされますが、実際の寒冷地性能は発売後の評価を待つ必要があります。
10. 発売時期の遅れリスク
2026年夏という発売予定は、まだ約半年先です:
- 競合車の登場:発売までに他メーカーから類似車種が登場する可能性
- スペックや価格の変更:現在公開されている情報が変更される可能性
- 市場環境の変化:EV市場や補助金制度の変更
競合車との比較
日産サクラ・三菱eKクロスEV

BYD ラッコの優位点
- スライドドア装備
- より高い全高(1,800mm vs 1,655mm)
- 広い室内空間
- 選択できるバッテリー容量(2グレード)
サクラ/eKクロスEVの優位点
- 実績と信頼性
- 充実したディーラー網
- 補助金額が多い傾向
- リセールバリューが安定
ホンダN-ONE e: / N-VAN e:

BYD ラッコの優位点
- スライドドア装備(N-ONE e:にはない)
- より長い航続距離(ロングレンジモデル)
- 広い室内空間
- 高速充電性能(予想)
N-ONE e: / N-VAN e:の優位点
- ホンダブランドの信頼性
- 全国の販売・サービス網
- デザインの洗練度
- 実績のあるバッテリーマネジメント
ヒョンデ インスター(普通車)

BYD ラッコの優位点
- 軽自動車のため税金が安い
- 取り回しの良さ
- 価格が安い(推定)
インスターの優位点
- より広い室内空間
- 高速安定性
- 長い航続距離(最大355km)
- 普通車としての快適性
誰におすすめか?
BYD ラッコが向いている人
- 自宅に充電環境がある:戸建て住宅や充電設備付き駐車場を利用できる
- 日常の移動距離が限定的:通勤や買い物など、一日の走行距離が50km以内
- スライドドアが必須:小さなお子様がいる、高齢者を乗せる機会が多い
- ランニングコストを重視:燃料費やメンテナンス費を抑えたい
- 環境意識が高い:CO2排出削減に貢献したい
- 新しいものに挑戦したい:新技術や新ブランドに興味がある
BYD ラッコが向いていない人
- 充電環境がない:集合住宅で充電設備がない、近隣に充電器もない
- 長距離移動が多い:頻繁に100km以上の移動をする
- ブランドを重視:国産メーカーやディーラー網の充実を優先
- すぐに必要:2026年夏まで待てない
- リセールバリュー重視:下取り価格の安定性を最優先
まとめ:BYD ラッコは軽EV市場の台風の目となるか
BYD ラッコは、スーパーハイトワゴン×スライドドア×EVという唯一無二のパッケージで、日本の軽自動車市場に新たな風を吹き込む可能性を秘めています。
総合評価
優れている点
- 日本市場に最適化された設計
- 実用的な航続距離(特にロングレンジモデル)
- 高い質感とデザイン性
- EVならではの走行性能
- 充実した安全装備
- V2L/V2H機能
気になる点
- 価格次第で評価が大きく変わる
- 販売・サービス網の課題
- ブランド認知度の低さ
- 充電インフラへの依存
- 長期的な信頼性は未知数
市場への影響
もしBYD ラッコが、補助金なしで200万円前後という価格を実現できれば、日本の軽EV市場、ひいては軽自動車市場全体に大きなインパクトを与える可能性があります。
スズキの鈴木社長が「価格競争はするべきじゃない」と警戒感を示したことからも、国内メーカーがBYD ラッコの登場を無視できない脅威と捉えていることがわかります。
今後の注目ポイント
- 正式な価格発表:249万円/299万円という想定価格が現実のものとなるか
- 実車の試乗評価:実際の走行性能や乗り心地はどうか
- 急速充電性能:国産軽EVを上回る性能を実現するか
- 販売体制の整備:発売までにディーラー網をどこまで拡充できるか
- 補助金額:CEV補助金の対象となり、どの程度支給されるか
BYD ラッコの登場は、「EVは高い」「軽自動車にEVは必要ない」といった固定観念を打ち破る可能性を秘めています。2026年夏の発売が待ち遠しい、注目の一台といえるでしょう。
購入を検討される方へのアドバイス
- まずは展示車を見る:質感やサイズ感を実際に確認
- 充電環境を確認:自宅や職場、近隣の充電設備をチェック
- ライフスタイルを見直す:一日の走行距離や使用パターンを分析
- 補助金情報を収集:国や自治体の補助金制度を調査
- 競合車も検討:日産サクラやホンダN-ONE e:なども比較検討
BYD ラッコは、日本の軽自動車市場に新たな選択肢をもたらす革新的なモデルです。その成否は、価格設定と実際の製品品質、そしてBYDの日本市場への本気度にかかっています。2026年夏の正式発売を楽しみに待ちましょう。

