ジャパンモビリティショー2025(JMS2025)にて、マツダは新世代デザインビジョンとなる「MAZDA VISION X-COUPE」を世界初公開しました。2ローターロータリーターボエンジンとプラグインハイブリッドシステムを組み合わせた革新的なコンセプトカーとして、大きな注目を集めています。本記事では、実際に展示された車両を詳しくチェックし、その魅力や特徴、優れている点と残念に感じる点まで徹底解説します。
MAZDA VISION X-COUPEとは?基本スペックと概要

ボディサイズと基本構成
- 全長×全幅×全高:5,030mm×1,995mm×1,480mm
- ホイールベース:3,080mm
- パワートレイン:2ローター・ロータリーターボエンジン+プラグインハイブリッドシステム
- 最高出力:510PS
- 航続距離:モーターのみで160km、エンジン併用で800km
VISION X-COUPEは、マツダ全体の次世代デザイン方向性を示す「ビジョンモデル」として位置づけられています。特定車種の後継モデルではなく、第8世代商品群の「エピソード0」として、ここからデザイン進化がスタートする起点となるコンセプトカーです。
外装デザインの魅力と特徴

「ソリッドムーブ」という新しいデザイン手法
VISION X-COUPEでは、第7世代商品群で表現してきた「リフレクション(映り込み)」による動きの表現から、**ボディ全体の造形そのもので動きを表現する「ソリッドムーブ」**という新しいデザイン手法が採用されています。
従来以上に引き算の美学が進められており、写真や動画では伝わりにくい、実車で見てこそわかる美しさが特徴です。
プレミアムレングスと流麗なシルエット
フロントのボンネットは非常に長く、いわゆる「プレミアムレングス」と呼ばれるプロポーションを採用。2ローターエンジンのコンパクトさを活かし、エンジンを車両中央寄りに配置することで、低重心かつスポーティなスタイルを実現しています。
サイドビューは4ドアクーペ、あるいはファストバックスタイルとも言える流麗なデザイン。MAZDA3を思わせるクォーターピラーの処理や、リアへ流れるようなルーフラインが印象的です。全長5m超え、全幅2m近いラージサイズながら、分厚さを感じさせない美しいシルエットが特徴的です。
フロントフェイスの革新的アプローチ
従来のマツダ車で象徴的だった「シグネチャーウイング」グリルは完全にボディ同色で覆われ、密閉されたデザインとなっています。これはプラグインハイブリッドという特性を活かし、開口部を必要最小限に集約することで、空力性能と冷却効率の両立を図ったもの。
ヘッドライトは切れ長の2連デザインで、ライトからボディ下部へ抜けていくデイライトが特徴的。あくまでコンセプトモデルらしい先進的なデザインです。
リアビューの美しさ

リアデザインは特に美しく、ぬめっとした造形の中にリアコンビネーションランプがビルトインされています。リアドアがほぼ見えないようなデザイン処理により、クーペらしいスポーティさが強調されています。
ボディカラー「グラスシルバー」
VISION X-COUPEのボディカラーは「グラスシルバー」という新色で、究極の透明感を目指した色です。マツダは現在、色よりも「素材」に着目してボディカラーを企画・開発する傾向にあり、このグラスシルバーもその方針に沿ったものとなっています。
内装デザインの魅力
グリーンを基調とした上質な空間

内装は魂動デザインのコンセプトカーとして初めてグリーンを基調としています。ドアトリムには「早く育つ木(成長過程でCO2を吸収)」を、シートの白い部分には「カキ殻を練りこんだ素材」を採用するなど、サステナブルな素材使いが特徴です。
先進的なコックピットデザイン

ドライバーズオリエンテッドを基調としつつ、シリンダー形状を意識したステアリングコラムや3眼の液晶メーターなど、メカニカルな印象と先進性が融合したデザイン。
横長の大型ディスプレイを搭載しながらも、メーターは3眼アナログ型デザインを採用している点がマツダらしいこだわりです。ただし、表示自体は液晶で、起動時には演出的な変化も楽しめます。
シートとマテリアル
フロントシートはセミバケットタイプで、ホールド性を重視したスポーティなデザイン。グリーンとブラック、そしてアクセントとなる金属調の組み合わせが印象的です。
リアシートも独立2座のバケットタイプで、後部座席でもしっかりとしたホールド性が確保されています。センターコンソール後端にはシートベンチレーションのマークが見られ、細部まで作り込まれている様子が伺えます。
パワートレインと環境技術
2ローターロータリーターボエンジン+PHEV
VISION X-COUPEの最大の特徴は、2ローターのロータリーターボエンジンとプラグインハイブリッドシステムの組み合わせです。従来のMX-30に搭載されていた1ローターの発電用エンジンとは異なり、直結駆動(直結)で使われることが予定されています。
最高出力は510PSを発揮し、モーターのみでの航続距離は160km、エンジンと併用すれば800kmという実用性も確保されています。
CO2回収技術「Mazda Mobile Carbon Capture」
さらに革新的なのが、走行中に排気ガスからCO2を回収する技術「Mazda Mobile Carbon Capture」の搭載です。微細藻類由来のカーボンニュートラル燃料と組み合わせることで、**走れば走るほど大気中のCO2を削減する「カーボンネガティブ」**を実現する構想です。
微細藻類(ナンノクロロプシス)は光合成でCO2を吸収しながら油脂を生成し、その油脂から燃料を精製。走行中に排出されるCO2の約20%を回収し、その回収したCO2を再び微細藻類の育成や農作物の成長促進に活用することで、持続可能なサイクルを構築します。
優れている点
1. 引き算の美学による洗練されたデザイン
余計な装飾を削ぎ落とし、ボディの造形そのもので美しさを表現する「ソリッドムーブ」は、実車を見ると圧倒的な存在感があります。写真や動画では伝わりにくい、見る角度によって変化する面の美しさは、まさに日本の美意識を体現しています。
2. ロータリーエンジンの復活と進化
マツダの象徴であるロータリーエンジンを、環境性能と走行性能を両立する形で復活させた点は高く評価できます。直結駆動により、ロータリー特有の滑らかな回転フィールや独特のサウンドを楽しめる可能性があります。
3. 環境技術の先進性
CO2回収技術や微細藻類由来燃料など、カーボンネガティブを目指す姿勢は自動車業界でも先進的。「走る歓びは、地球を笑顔にする」というテーマを具現化した技術です。
4. 内装の質感とサステナブル素材
グリーンを基調とした内装は新鮮で、カキ殻や成長の早い木材などサステナブル素材を使いながらも上質さを失わない仕上がりは見事です。
5. パッケージングの合理性
2ローターエンジンのコンパクトさを活かし、低重心で運動性能を重視したパッケージングは、「走る歓び」を追求するマツダらしいアプローチです。
残念な点・課題
1. フロントグリルのデザインに賛否
ボディ同色で覆われたフロントグリルは、「マスクをしているよう」に見えるという意見も。従来のシグネチャーウイングに慣れ親しんだファンにとっては、やや物足りなさを感じるかもしれません。デザイナーによれば空力と冷却効率の観点から合理的とのことですが、デザイン的な好みは分かれるでしょう。
2. 実用化までの技術的ハードル
CO2回収技術や微細藻類燃料は、まだ実証実験段階であり、市販化にはコストや実用性の課題が残ります。特に微細藻類燃料の生産コストをいかに下げるかが鍵となります。
3. ロータリーエンジンの環境基準クリア
ロータリーエンジンは排気ガス規制のクリアが課題であり、グローバルの環境基準に準拠しつつロータリーらしい魅力を維持するには、さらなる開発期間が必要とされています。
4. 価格面での懸念
高度な技術と贅沢なパッケージングを考えると、市販化された場合の価格は相当高額になることが予想されます。マツダファンにとって手の届く価格帯になるかは不透明です。
5. ビジョンモデルゆえの不確実性
あくまで「ビジョンモデル」であり、このデザインやスペックがそのまま市販化されるわけではありません。過去のRX-VISIONやVISION COUPEのように、コンセプトは素晴らしくても量産車ではSUVが中心となった経緯もあり、ファンからは「結局クーペは出ないのでは」という懸念の声もあります。
デザイナーへのインタビューから見えたこと
会場では、デザインを担当した岩尾氏から直接話を聞くことができ、以下のような興味深い情報が得られました。
- デザインの方向性:「ネオセンティック(Neo-Centric)」をテーマに、本物のクルマらしさと美しさを現代の感覚で再構築
- フロント開口部:冷却は一箇所に集約した方がマネージメントしやすいため、小さくても問題ない
- グラスシルバー:究極の透明感を目指し、素材感を重視して開発された色
- 今後の展開:エピソード0からスタートし、ここから進化していく予定
デザイナー自身も大のクルマ好きであり、ロータリーエンジンへの熱い想いが感じられました。
市販化の可能性と今後の展望
VISION X-COUPEはあくまでビジョンモデルですが、マツダは2026年頃の市販化を視野に入れているとの情報もあります。ただし、そのまま市販化されるのではなく、このデザイン言語やエレメントが今後の商品群に展開されていく可能性が高いでしょう。

特に注目すべきは、以下の点です。
- ICONIC SPとの関係:同じくロータリーエンジン搭載が予定されているICONIC SPとプラットフォームやエンジンを共通化する可能性
- MAZDA6クラスの後継:サイズ感からMAZDA6クラスの4ドアクーペやシューティングブレークとしての展開
- ロータリースポーツの復活:RX-9やRX-7の後継としての可能性
マツダは2024年5月のワークショップで2ローターロータリーエンジンの開発を発表しており、着実に実用化へ向けて前進しています。
まとめ
MAZDA VISION X-COUPEは、マツダが描く未来のクルマのあり方を示した意欲的なコンセプトカーです。引き算の美学による洗練されたデザイン、ロータリーエンジンの復活、そしてカーボンネガティブを目指す環境技術など、多くの魅力が詰まっています。
優れている点としては、デザインの完成度、先進的な環境技術、ロータリーエンジンの進化が挙げられます。一方で、課題としては、実用化までの技術的ハードル、コスト、そして市販化の不確実性があります。
しかし、マツダがこうしたビジョンを明確に示し、実現に向けて技術開発を進めている姿勢は高く評価できます。「走る歓びは、地球を笑顔にする」というメッセージが、本当に実現される日が来ることを期待したいと思います。
ジャパンモビリティショー2025でVISION X-COUPEを実際に見る機会があれば、ぜひ足を運んでみてください。写真や動画では伝わらない、実車ならではの美しさと迫力を体感できるはずです。
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