2024年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが放つ最新スーパースポーツ2台と、レクサスの次世代BEVコンセプトカーがワールドプレミア
トヨタ自動車とTOYOTA GAZOO Racingは2024年12月5日、静岡県裾野市のトヨタ・ウーブンシティ内にある「インベンター・ガレージ」にて、待望の新型フラッグシップスポーツカー「GR GT」と、そのレーシングバージョン「GR GT3」、さらにレクサスの次世代電動スポーツカーのコンセプトモデル「Lexus LFA Concept」の3台を同時公開しました。この歴史的な発表は、トヨタのスポーツカー史において「TOYOTA 2000GT」「Lexus LFA」に続く第三の系譜として位置付けられる重要なマイルストーンとなります。
1. 「GR GT」とは:コンセプトと開発思想

公道を走るレーシングカー
GR GTのコンセプトは明確です:「公道を走るレーシングカー」。このフィロソフィーの下、TOYOTA GAZOO Racingが長年培ってきた「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」の集大成として開発されています。
スポーツカーとしての高い次元での両立
単なる高性能スーパーカーではなく、以下の要素を高次元で両立することを目指しています:
- 極限のパフォーマンス:サーキットでのラップタイム追求
- 扱いやすさ:限界領域でも予測可能な挙動
- 日常使用の快適性:公道での実用性と高揚感
- クルマとの対話:ドライバーとの一体感
この「対話できるクルマ」というコンセプトは、近年の電子制御満載のスーパーカーとは一線を画する、ドライビングの本質を追求する姿勢を示しています。
2. 革新的なパワートレイン:650PS超のV8ツインターボハイブリッド
新開発4.0リッターV8ツインターボエンジン

GR GTの心臓部は、完全新設計の4.0リッターV型8気筒ツインターボエンジンです。このエンジンの主要スペックは以下の通りです:
パワートレイン主要諸元(開発目標値)
- エンジン形式:V型8気筒 4.0リッターツインターボ
- システム最高出力:650PS以上
- システム最大トルク:850Nm以上(約86.7kgf・m)
- ハイブリッドシステム:1モーター+8速AT
- 駆動方式:FR(フロントエンジン・リヤドライブ)
- 潤滑方式:ドライサンプ
ハイブリッドシステムの戦略的配置
650PSを超える圧倒的なパワーを生み出すこのパワートレインには、トヨタが誇るハイブリッド技術が統合されています。1基のモーターをリヤのトランスアクスルに内蔵することで、以下のメリットを実現:
- 低重心化:モーターをリヤに配置することで前後重量配分を最適化
- 瞬発力の向上:モーターの即座のトルク供給で加速レスポンスを改善
- 効率性:ハイブリッドシステムによる燃費性能の向上
ドライサンプ方式の採用理由
レーシングカーで一般的なドライサンプ方式を採用することで、エンジン全高を大幅に低減。これにより車両全体の重心を下げ、コーナリング性能を飛躍的に向上させています。
3. 究極の低重心設計:ドライバーとクルマの一体化

「極限まで下げる」という開発の出発点
GR GTの開発は、「徹底した低重心化」という明確な目標からスタートしました。開発チームは以下の要素を極限まで引き下げることに注力:
- 車両全高
- ドライバーのヒップポイント
- エンジンの搭載位置
- 重量物の重心位置
ドライバーとクルマの重心を同一化
特筆すべきは、ドライバーの重心とクルマの重心をほぼ同じ位置に配置するという革新的なアプローチです。これにより:
- クルマの挙動をダイレクトに感じ取れる
- ステアリングやペダル操作への反応が自然
- 限界走行時の予測可能性が向上
- ドライバーとクルマの一体感が最大化
FRレイアウトの選択理由
駆動方式にFR(フロントエンジン・リヤドライブ)を採用した理由は、「限界領域までの扱いやすさ」を重視したため。ミッドシップやAWDではなく、あえてFRを選択することで:
- ステアリングフィールの自然さ
- 前後重量配分の最適化
- ドリフトコントロールの容易さ
- メンテナンス性の向上
を実現しています。
4. トヨタ初のオールアルミニウム骨格構造
軽量・高剛性の追求
GR GTでは、トヨタとして初めてオールアルミニウム骨格を採用。この革新的なシャシー構造により:
- 軽量化:スチール製に比べて大幅な重量削減
- 高剛性:アルミ押出材と鋳造部品の組み合わせで強度確保
- 振動特性の改善:アルミ特有の減衰特性を活用
マルチマテリアル戦略
骨格はアルミニウムですが、ボディパネルには適材適所の考え方で様々な素材を採用:
- カーボンファイバー(CFRP):ボンネット、ルーフ、リヤウイングなど
- 樹脂パネル:フェンダーなどの外装パーツ
- アルミニウムパネル:ドアなどの構造部品
この複合素材アプローチにより、強度を保ちながら最大限の軽量化を実現しています。
CFRP製トルクチューブ
特筆すべきは、エンジンとトランスアクスルを繋ぐトルクチューブにカーボンファイバー強化プラスチック(CFRP)を採用している点。これにより:
- トルクチューブ自体の軽量化
- 高剛性による動力伝達効率の向上
- ねじれ剛性の向上
5. 空力性能を最優先したエクステリアデザイン
従来とは逆のデザインプロセス
GR GTのデザイン開発では、従来のクルマづくりとは真逆のアプローチを採用しました:
従来の開発プロセス
- デザイナーが外観デザインを決定
- そのデザインに空力性能を後付け
GR GTの開発プロセス
- 空力設計担当者が理想の空力性能を定義
- その空力性能を実現するデザインをデザイナーが創出
機能美としてのデザイン
この結果、GR GTのエクステリアは単なる美しさではなく、機能から導き出された美しさを持っています:
- 大型のフロントエアインテーク:エンジンとブレーキの冷却性能最大化
- フラットなアンダーボディ:空気の流れをスムーズに
- リヤディフューザー:ダウンフォース生成とドラッグ低減
- アクティブエアロデバイス:走行状況に応じた空力特性の最適化
ダウンフォースと抵抗のバランス
高速走行時の安定性を確保するダウンフォースと、最高速度を伸ばすための空気抵抗低減。この相反する要素を高次元で両立させるため、CFD(数値流体力学)シミュレーションと風洞実験を何百回も繰り返しました。
6. ドライバーファーストのインテリア設計
人間工学に基づいたドライビングポジション
インテリアデザインも、プロドライバー起点のベストなドライビングポジションの実現を最優先課題としています。具体的には:
- 極限まで低いヒップポイント:路面との近さを感じられる着座位置
- 最適なペダル配置:ヒール&トゥがしやすいペダルレイアウト
- 視界の確保:Aピラーの細さと窓面積の最大化
- ステアリング位置:腕を自然に伸ばせる角度と距離
限界走行を支える視界設計
サーキット走行時の視界確保も徹底的に考慮:
- コーナリング時のクリッピングポイントの視認性
- バックミラーとサイドミラーの配置最適化
- ダッシュボードの低さによる前方視界の広さ
レーシングカー由来のコックピット
インテリアには、TOYOTA GAZOO Racingがモータースポーツで培った知見が随所に:
- バケットシート(固定式または調整式)
- 多機能ステアリングホイール
- デジタルメーター(カスタマイズ可能なディスプレイ)
- 操作系の集中配置
7. 「GR GT3」:FIA GT3規格のレーシングカー
カスタマーモータースポーツの頂点
GR GT3は、GR GTをベースにFIA GT3規格に適合させたレーシングカーです。GT3カテゴリーは世界中で人気の高いカスタマーレーシングクラスで:
- スーパーGT(GT300クラス)
- ニュルブルクリンク24時間レース
- ブランパンGTシリーズ
- IMSA GTDクラス
など、数多くの主要レースで採用されています。
「勝ちたい人に選ばれるクルマ」
GR GT3の開発コンセプトは明確です:
- プロドライバーが速く走れる:絶対的なパフォーマンス
- ジェントルマンドライバーも扱いやすい:予測可能な挙動
- レースで勝てる競争力:信頼性と性能のバランス
- 最適なカスタマーサポート:TOYOTA GAZOO Racingの全面バックアップ
GR GTとの共通性
GR GT3は、市販車のGR GTと多くの部品を共有:
- オールアルミニウム骨格シャシー
- ダブルウィッシュボーン式サスペンション
- 4.0リッターV8ツインターボエンジン(GT3規格に適合化)
この高い共通性により、開発コストの削減と信頼性の向上を両立しています。
2027年頃のレースデビュー目標
GR GT3は、2027年頃の実戦投入を目指して開発中。トヨタ/レクサスブランドとして、LFA以来となる本格的なGT3マシンの登場は、世界のモータースポーツシーンに大きなインパクトを与えることでしょう。
8. 「トヨタの式年遷宮」:技術継承の理念
伊勢神宮に倣った技術継承の考え方
今回発表された3台(GR GT、GR GT3、Lexus LFA Concept)は、トヨタが「式年遷宮」と呼ぶ技術継承プロジェクトの一環です。
式年遷宮とは、伊勢神宮で約20年ごとに行われる社殿の建て替え行事。この伝統行事には、建築技術を次世代に継承するという重要な意味があります。
トヨタもこれに倣い、約20年ごとにフラッグシップスポーツカーを開発することで:
- クルマづくりの基本技術を守る
- 新技術を採り入れて進化させる
- "秘伝のタレ"を次世代に伝える
ことを目指しています。
過去のフラッグシップとの系譜
- 1967年 TOYOTA 2000GT:日本初の本格スポーツカー
- 2010年 Lexus LFA:カーボンモノコックの超高性能スポーツカー
- 2027年 GR GT / Lexus LFA Concept:次世代フラッグシップ
この約15〜20年の間隔で、トヨタはスポーツカーづくりの技術を磨き続けています。
9. マスタードライバー「モリゾウ」の関与
豊田章男会長の深い関与
GR GTの開発には、代表取締役会長の豊田章男氏が「マスタードライバー モリゾウ」として開発の最初期から深く関与しています。
「振り切ってほしい」「突き抜けてほしい」
開発チームに対して、モリゾウからは度々こうした言葉が投げかけられました:
- 「もっと振り切ってほしい」
- 「突き抜けてほしい」
- 「妥協するな」
この言葉を受けて、エンジニアたちはトヨタ初となる新技術を次々と採用する挑戦的な開発を進めてきました。
開発ドライバー陣の豪華な顔ぶれ
GR GTの開発には、モリゾウを中心に以下のような多彩なドライバーが参画:
プロドライバー
- 片岡龍也選手:スーパーGT、スーパーフォーミュラで活躍
- 石浦宏明選手:ニュルブルクリンク24時間レースの経験豊富
- 蒲生尚弥選手:若手トップドライバー
ジェントルマンドライバー
- 豊田大輔選手:豊田章男氏の息子、レース経験豊富
社内評価ドライバー
- トヨタ社内の熟練テストドライバー多数
この多様なドライバー陣が、それぞれの視点からフィードバックを提供し、クルマの完成度を高めています。
10. 革新的な開発手法:シミュレーターとリアルワールドテストの融合
ドライビングシミュレーターの早期導入
GR GTの開発では、レーシングカー開発で一般的なドライビングシミュレーターを、開発の初期段階から積極的に活用しています。
シミュレーターのメリット
- 試作車がなくても走行評価が可能
- パラメーター変更が瞬時に行える
- 危険な限界走行も安全に試せる
- 開発コストと時間の大幅削減
世界中のサーキットでの実走テスト
シミュレーターでの開発と並行して、実車による徹底的な走り込みも実施:
テストが行われた主なサーキット
- 富士スピードウェイ(日本)
- トヨタテクニカルセンター下山(日本)
- ニュルブルクリンク(ドイツ):北コースでの過酷な耐久テスト
- その他世界各地のサーキット
公道テストの重要性
サーキットだけでなく、公道でのテストも入念に実施:
- 日常使用での快適性確認
- 一般道での扱いやすさ検証
- 実用性能の評価
- 信頼性・耐久性の確認
「公道を走るレーシングカー」というコンセプトを実現するため、公道テストは不可欠なプロセスです。
「走る・壊す・直す」の繰り返し
TOYOTA GAZOO Racingが掲げる「走る・壊す・直す」という開発手法をGR GTでも徹底。この手法により:
- 弱点の早期発見
- 限界性能の把握
- 信頼性の向上
- 真の性能の追求
が可能になります。
11. 発売時期と価格予想
2027年頃の発売を目標
公式発表によれば、GR GTは2027年頃の発売を目指して開発が進行中です。発売までの予定スケジュール:
- 2024年12月:プロトタイプ発表
- 2025〜2026年:開発の継続、詳細情報の段階的公開
- 2027年頃:市販モデル発売
予想価格帯
正式な価格はまだ発表されていませんが、競合車種や搭載技術から以下のような価格帯が予想されます:
GR GT(市販モデル)
- 予想価格:2,000万円〜3,000万円
- 根拠:Lexus LFAが約3,750万円、競合するポルシェ911ターボやフェラーリ296 GTBが2,500万円前後
GR GT3(レーシングカー)
- 予想価格:5,000万円〜7,000万円
- 根拠:GT3カーは一般的に5,000万円〜8,000万円の価格帯
生産台数は限定か
Lexus LFAが500台限定生産だったことを考えると、GR GTも限定生産となる可能性が高いでしょう。予想生産台数:
- 年間100〜200台程度
- 注文生産方式
- カスタマイズオプション豊富
12. 競合車種との比較
GR GTが競合することになる主なスーパースポーツカーと比較してみましょう:
ポルシェ911 ターボ S
| 項目 | GR GT | ポルシェ911ターボ S |
|---|---|---|
| エンジン | V8 4.0L ツインターボ+モーター | 水平対向6気筒 3.7L ツインターボ |
| 最高出力 | 650PS以上 | 650PS |
| 駆動方式 | FR | AWD |
| 価格 | 約2,500万円(予想) | 約2,700万円 |
GR GTの優位点:ハイブリッドシステムによる効率性、FR特有のドライビングフィール
フェラーリ 296 GTB
| 項目 | GR GT | フェラーリ296 GTB |
|---|---|---|
| エンジン | V8 4.0L ツインターボ+モーター | V6 3.0L ツインターボ+モーター |
| 最高出力 | 650PS以上 | 830PS |
| 駆動方式 | FR | MR |
| 価格 | 約2,500万円(予想) | 約4,200万円 |
GR GTの優位点:価格的優位性、TOYOTA GAZOO Racingのサポート体制
マクラーレン 750S
| 項目 | GR GT | マクラーレン750S |
|---|---|---|
| エンジン | V8 4.0L ツインターボ+モーター | V8 4.0L ツインターボ |
| 最高出力 | 650PS以上 | 750PS |
| 駆動方式 | FR | MR |
| 価格 | 約2,500万円(予想) | 約4,600万円 |
GR GTの優位点:ハイブリッド技術、日本メーカーならではの信頼性
13. まとめ:日本のスーパースポーツカー新時代の幕開け
GR GTが示す方向性
TOYOTA GAZOO Racingが満を持して投入するGR GTは、単なるスーパースポーツカーではありません。それは:
- モータースポーツと市販車の融合:レースで培った技術の直接フィードバック
- ドライバーファースト:徹底的にドライバー視点での開発
- 技術の継承:次世代へのクルマづくりの技能伝承
- 日本の技術力:世界と戦える日本製スーパーカー
という多面的な意義を持つプロジェクトです。
2027年の発売に向けて
今後、GR GTに関する詳細情報は段階的に公開される予定です。注目すべきポイント:
- 正確なパフォーマンス数値:0-100km/h加速、最高速度など
- 価格と生産台数:購入可能性の判断材料
- カスタマイズオプション:個性を出せるオプション内容
- GR GT3の参戦スケジュール:どのレースで見られるか
日本のモータースポーツシーンへの影響
GR GT3の登場により、スーパーGTやニュルブルクリンク24時間レースなどで、トヨタ/レクサスブランドの新たな活躍が期待されます。これは:
- 日本のモータースポーツの活性化
- カスタマーレーシングの裾野拡大
- 若手ドライバーの育成機会増加
につながることでしょう。
「クルマ好き」のための真のスポーツカー
最後に、GR GTが目指すのは単なる速さだけではありません。それは:
- クルマと対話できる喜び
- 運転する楽しさの追求
- 所有する満足感
という、クルマ好きにとって本質的な価値の提供です。
電動化の波が押し寄せる自動車業界にあって、内燃機関とモーターを組み合わせた高性能ハイブリッドスポーツカーという選択は、トヨタが示す「クルマの楽しさを未来に残す」という強い意志の表れと言えるでしょう。
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