シャープ株式会社は2025年10月24日、電気自動車(EV)事業への本格参入を表明し、2027年度にシャープブランドのEVを国内市場向けに投入すると発表しました。家電メーカーとして培ってきた技術を結集し、従来の自動車メーカーとは一線を画す独自のコンセプトで、モビリティ市場に新たな価値を提案します。

家電の巨人が挑む新たな挑戦――リビングルームとして使えるEV「LDK+」
この発表に合わせて、同社は第二弾となるEVコンセプトモデル「LDK+(エルディーケープラス)」を公開。2025年10月30日から11月9日まで東京ビッグサイトで開催される国内最大級のモビリティイベント「Japan Mobility Show 2025」で初披露されます。

「止まっている時間」に価値を生む革新的コンセプト

95%の駐車時間を活用する発想の転換
シャープが着目したのは、自動車の保有時間の95%が駐車状態であるという事実です。多額の投資をしているにもかかわらず、シフトレバーが「P」に入っている時間は従来、ほとんど価値を生んでいませんでした。
新キーメッセージ「Part of your home」
今回、シャープは新たなキーメッセージ「Part of your home(家の一部)」を掲げました。これは従来の「Park of your home(家に駐車するもの)」という概念から、「Part of your home(家の一部として機能するもの)」へと進化させる考え方です。EVを単なる移動手段ではなく、リビングルームの拡張空間として活用する――これがシャープの描く未来のモビリティ像です。
LDK+第二弾の特徴と仕様
鴻海との連携によるコンパクトミニバン

第二弾のコンセプトモデルは、親会社である鴻海科技集團(Foxconn)のEV「Model A」をベースに開発されています。コンパクトミニバンサイズながら、広々とした車内レイアウトを実現し、小回りが利くボディとゆったり過ごせる車内空間を両立しました。
主な仕様予定
- 乗車定員:5人
- 航続距離:300~400km(目標)
- ボディサイズ:3ナンバー(車内空間を広くとるため)
- 価格帯:ファミリー層が無理なく購入できる手頃な価格を想定
革新的な車内空間設計
回転式運転席とリビング空間
LDK+の最大の特徴は、その革新的な車内レイアウトです。運転席と助手席の間には、テーブルやプロジェクターを備えたコンソールボックスを配置。運転席を後ろ向きに回転させると後部座席と対面し、まるでリビングルームのような空間が誕生します。
大画面エンターテインメント
後部座席上部にはロール式のスクリーンを設置。これを下ろせば、車内で映画を楽しんだり、大画面を活用したオンライン会議を行ったりすることが可能です。
シャープ独自技術の融合
AIoTプラットフォームによる家電連携
シャープのAIoTプラットフォームを通じて、キッチン家電や空調機器、洗濯機など、1000万台以上の出荷実績を持つAIoT家電とEVが連携します。AIが生活パターンや室温などの好みを学習し、「人に寄り添う」新しいライフスタイルを創出します。
CE-LLM(Communication Edge - Large Language Model)
シャープ独自のAI技術「CE-LLM」を搭載。エッジデバイスにAI技術を搭載し、必要に応じてクラウドAIもシームレスに活用することで、スムーズで心地よいコミュニケーションを実現します。
プラズマクラスターによる空気清浄
シャープの代名詞とも言えるプラズマクラスター発生装置により、車内の空気をきれいに保ちます。運転中も、部屋として使うときも、常に快適な環境を維持できます。
V2Hシステムとエネルギーマネジメント
V2H(Vehicle to Home)システムとの連動により、家のエネルギーシステムとつなげて車内で家の電気が使えるだけでなく、シャープが提供する「Eeeコネクト」を通じて太陽光発電や住宅用蓄電池と連携。住宅全体で最適なエネルギーマネジメントを実現します。
多様なユースケース
リモートワーク部屋
シャープI-001プロジェクトチーム チーフの大津輝章氏は、「快適で、集中できるリモートワーク部屋にしたり、子供向けにはAI家庭教師がサポートする勉強部屋にしたりといった利用ができる」と説明します。
シアタールーム
プロジェクターとスクリーンを活用し、パーソナルなシアタールームとして映画やドラマをリラックスして楽しむことができます。
モバイルオフィス
大画面を活用した本格的なオンライン会議や、プレゼンテーション用のスペースとしても機能します。
独自の販売戦略
家電量販店や住宅メーカーとの連携
シャープは従来の自動車ディーラー網とは異なる独自の販路を構想しています。家電量販店や大手スーパー、住宅設備メーカーなどを通じた個人向け販売を計画。家電や住宅販売との相乗効果を狙います。
段階的な市場投入
まずはシャープ社内での利用を計画し、その実績をもとにフリート(B2B)での販売も想定。また、自動車販売会社との連携も模索していく考えを示しています。
開発体制の強化
日産出身の大津輝章氏を起用
シャープは、日産自動車で20年以上の経験を持つ大津輝章氏をI-001プロジェクトチームのチーフに登用しました。大津氏は日産時代に主に海外事業とマーケティング、セールス分野に従事し、Global Chief Marketing Managerとして世界で販売する車の責任者を務めた実績を持ちます。
大津氏は「シャープ固有の技術を搭載することで、既存の自動車メーカーでは対応していない領域で、顧客ニーズに応えていく。LDK+は、クルマの性能が主役ではなく、車内空間や利用シーンが主役であり、ビジネス、ファミリー、パーソナルが対象となる。クルマのライフスタイルが変わることを目指す」と述べています。
鴻海との協業体制
新生「I-001プロジェクトチーム」は、各事業本部や親会社の鴻海とも連携した横断プロジェクトとして、EV事業を加速させています。鴻海が持つEVの設計・生産技術と、シャープが持つAIoT技術とエネルギーソリューションを組み合わせることで、独自のポジショニングを確立する戦略です。
日本のEV市場における可能性
成長余地の大きい日本市場
種谷CTOは、「EVの成長は鈍化しているが、今後の成長が期待できる市場である。とくに、日本市場はEVの普及率が1%と低く、市場拡大に大きな余地がある」と指摘します。
新たなユーザーニーズへの対応
従来のクルマに対するニーズは、走行性能や外観、内装デザイン、燃費、安全性、航続距離などが中心でした。しかし、ソフトウェア定義型自動車(SDV)の進化や、AIおよびクラウドサービスとの連携などにより、環境への配慮やエンターテインメントの観点からの快適性、ライフスタイルとの融合、自分に最適化したカスタマイズ性など、新たなユーザーニーズが発生しています。
種谷CTOは、「家電技術で培ってきた自然なUI、空質改善などの豊富な機能、AIoTなどの機器連携、素早い応答が可能なエッジAIにより、シャープならではの新たなEVが提案できる」と自信を示します。
「ひとの願いの、半歩先。」を体現
シャープは2025年9月に新たなコーポレートスローガンとして、「ひとの願いの、半歩先。」を制定しました。「ひとの願い」に対してほんの少し先回りすることで、驚きと喜びをもたらす新たな体験を届けることを目指しています。
LDK+は、まさにこのスローガンを体現するプロジェクトです。種谷CTOは、「クルマは暮らしの中でもっとできることがあり、クルマは人の願いをもっと叶えることができる。シャープだからこその半歩先の提案をしていく」と語ります。
さらに、「クルマと家が一体化することで、10年後にはクルマはガレージに止めていたんだと言われる時代がくるかもしれない。LDK+によって、家のあり方、生活のあり方、マンションの構造、ライフスタイルまで変化を及ぼしたい」と壮大なビジョンを描いています。
「超大型家電」としてのEV
シャープの沖津雅浩社長CEOは、「LDK+は、シャープにとっては、超大型家電である」とコメント。今回の説明会でも「LDK+は暮らしを豊かにする家電のひとつであり、シャープの技術を使って、クルマも、家のような快適な空間を実現する」と位置づけられています。
この発言は、シャープがEVを単なる移動手段ではなく、生活空間を拡張する家電製品の一つとして捉えていることを明確に示しています。
Japan Mobility Show 2025での展示
2025年10月30日から11月9日まで東京ビッグサイトで開催される「Japan Mobility Show 2025」のシャープブースで、LDK+第二弾が初公開されます。ブースでのプレスブリーフィングでは、LDK+を実現する上で重要なパートナーである鴻海のCSOからのメッセージも提供される予定です。
事業化へ着実な前進
種谷CTOは、「以前に披露した試作モデルよりも軽量化が進み、より事業化に近づいた」と説明します。2024年9月に開催された自社の技術展示会「SHARP Tech-Day'24 "Innovation Showcase"」で第一弾のコンセプトモデルを発表した後、継続的に多様なパートナーとの議論を進め、事業化に向けて着実に検討を進めてきました。
LDK+の事業化に向けた歩みは、明らかに加速しています。2027年度の市場投入まで、さらなる技術革新とパートナーシップの構築が期待されます。
まとめ:家電メーカーが切り拓くモビリティの未来
シャープのEV参入は、自動車業界に新たな風を吹き込む可能性を秘めています。走行性能や燃費といった従来の指標ではなく、「止まっている時間」の活用という独自の視点から、モビリティの新たな価値を提案する姿勢は、まさに家電メーカーならではのアプローチです。
AIoT技術、エネルギーマネジメント、空気清浄技術など、長年培ってきた家電技術をEVに統合することで、「Part of your home」――家の一部としてのEV――という革新的なコンセプトを実現しようとしています。
2027年度の市場投入を目指すシャープのEV事業は、日本のモビリティ市場に新たな選択肢を提供するだけでなく、私たちのライフスタイルそのものを変革する可能性を秘めています。Japan Mobility Show 2025でのLDK+第二弾の実物展示が、今から待ち遠しい限りです。
参考情報

