2025年10月24日、トヨタ自動車は公式プレスリリースにて、スポーツカー「GRスープラ」の生産終了を正式に発表しました。2026年3月をもって生産を終了することが明らかになり、初代モデルから数えて約47年の歴史に幕を下ろすことになります。
1. GRスープラ生産終了の正式発表
トヨタ公式サイトには以下のコメントが掲載されました。
「スープラについて、2026年3月をもって生産を終了いたします。たくさんのお客様にご愛顧いただき、誠にありがとうございました。購入をご検討中だったお客様におかれましては、生産終了のお知らせとなり、大変申し訳ございません。代替の車種などについては、お近くの販売店にお問い合わせください。」
トヨタ自動車
この発表は世界中のスポーツカーファンに衝撃を与え、特に注目すべきは「代替の車種を案内する」という表現です。これは通常の生産終了時に見られる「新規注文が生産台数に達した時点で販売終了」といった表現とは異なり、すでにスープラの注文が生産台数に達した可能性を示唆しています。
購入を検討していた方は、早急に最寄りのトヨタ販売店へ問い合わせることをおすすめします。
2. スープラ約47年の歴史を振り返る
スープラの歴史は1978年に遡ります。各世代の特徴を詳しく見ていきましょう。
初代(A40/50型:1978年~1981年)
スープラの歴史は「セリカ」の上位モデルとしてスタートしました。日本国内では「セリカXX(ダブルエックス)」、北米では「セリカ・スープラ」の名称で展開。直列6気筒のM型エンジンを搭載し、トヨタのスポーツカーとしての地位を確立し始めました。
2代目(A60型:1981年~1986年)
2代目でも「セリカ」の名を冠していましたが、「XX(スープラ)」としての認知度が高まり、人気も上昇。スポーツカーとしてのアイデンティティがより明確になりました。
3代目(A70型:1986年~1993年)
この世代から大きな転換点を迎えます。シャーシ共有を「セリカ」から「ソアラ」に変更し、車格がアップ。これを機に独立したモデルとなり、国内外で名称を統一して「スープラ」と名乗るようになりました。
4代目(A80型:1993年~2002年)
「THE SPORTS OF TOYOTA」のキャッチコピーを掲げ、シャーシ、エンジン、サスペンション、外観デザインのすべてを刷新。トップグレードに搭載された3L直列6気筒ツインターボの「2JZ-GTE型」エンジンは、チューニング界隈でも"最強ユニット"として伝説的な存在となりました。
しかし2002年に生産終了となり、スープラは一度ラインナップから姿を消すことになります。
5代目(A90型:2019年~2026年)
約17年の空白期間を経て、2019年にBMWとの共同開発によって「GRスープラ」として復活。トヨタのスポーツブランド「GR」のフラッグシップモデルとして君臨しましたが、一度もフルモデルチェンジされることなく、2026年3月に生産終了することが決定しました。
3. 現行A90型GRスープラとは?BMW共同開発の背景

BMWとの技術提携から生まれたスポーツカー
現行A90型GRスープラは、2012年にBMWと技術提携を結んだことがきっかけで誕生しました。当初は様々なプランが検討されていましたが、「トヨタ86」の成功を追い風に、ピュアスポーツカーを作りたいという流れが生まれました。
プロジェクトの骨子はトヨタが提案し、プラットフォームなどの設計はBMWに託されました。BMWの「Z4」と基本構造を共有していますが、セッティングは大きく異なり、乗り味は完全に別物に仕上がっています。
理想のスポーツカーを追求した設計思想
A90型スープラの最大の特徴は、理想のスポーツカーを目指して専用プラットフォームから開発された点です。
主な設計上の特徴:
- ホイールベース・トレッド比(W/T):ハンドリングの黄金比とされる1.6以下に設定
- 乗員構成:理想の重量配分を実現するため2シーターに割り切り
- 前後重量配分:理想値とされる50:50を実現
- 車体剛性:レーシングカーレベルの剛性を達成。オープンボディのZ4で十分な剛性を確保する設計のため、ルーフ付きスープラは「レクサスLFA」以上の剛性を獲得
エンジンラインナップ
直列6気筒モデル(RZグレード)
- BMW製「B58B30-M1型」2998cc DOHC直噴ツインスクロールターボ
- 最高出力:340ps(初期モデル)
- 最大トルク:51kgm
直列4気筒モデル(SZ/SZ-Rグレード)
- BMW製「B48B20型」1998cc DOHC直噴ツインスクロールターボ
- 高出力版:258ps(SZ-R)
- 低出力版:197ps(SZ)
トランスミッションは当初8速ATのみでしたが、後にRZグレード用に6速MTが追加され、純粋なドライビングプレジャーを求めるユーザーのニーズにも応えました。
4. 最終特別仕様車「A90ファイナルエディション」の全貌


車両価格1,500万円の衝撃と「破格」の中身
2025年3月に発表された「GRスープラ A90ファイナルエディション」は、日本国内では抽選により150台限定で販売される特別仕様車です。車両本体価格は15,000,000円(税込)と、標準モデルRZ(約800万円)の約2倍という高額設定となっています。
しかし、その改良内容を見れば「破格」といえる仕様で、トヨタの技術の集大成ともいえるモデルです。開発コストを考えれば採算度外視の「赤字覚悟のバーゲンモデル」とも評されています。

パワートレインの大幅強化
エンジン性能向上
- 最高出力:387ps → 435ps(48ps向上)
- 最大トルク:500Nm → 570Nm(70Nm向上)
- 吸気経路の見直し、低背圧触媒の採用で圧力損失を低減
- エンジン制御の最適化により加速性能とレスポンスが向上
冷却性能の強化
- ラジエーター冷却ファンの強化
- サブラジエーターの追加
- ディファレンシャルギアカバーの冷却フィンを大型化
- エンジンオイルパンにバッフルプレートを追加し、高G域でのオイル偏りを防止
マフラー・サウンド
- アクラポヴィッチ製チタンマフラーを採用
- 迫力あるエンジンサウンドを実現
ブレーキ性能の大幅向上

- フロントにbrembo製19インチブレーキと高μブレーキパッドを採用
- 前後にフローティング構造のドリルドディスクを装備
- ステンレスメッシュブレーキホースにより圧力伝達損失を抑制
- スポーツ走行時でも優れた制動力を確保
サスペンション・シャーシの進化

KW製サスペンション採用
- GR Supra GT4が採用する高性能サスペンションを市販車に搭載
- 伸び側16段、縮み側12段の減衰力調整機能
- 前後スタビライザーの強化により限界性能を向上
ボディ剛性の徹底強化
- フロントロアアームに強化ゴムブッシュを採用
- フロントコントロールアームにピロボールジョイントを採用
- リヤサブフレームをGR Supra GT4と同じアルミリジッドマウントに変更
- フロントカウルブレースを強化し、フロント床下ブレースを追加
- リヤ床下ブレースの構造強化
- 室内に強化ラゲージクロスバーを採用
- 結果として、サスペンションとボディの一体感が向上し、ダイレクト感、グリップ感、コントロール性が飛躍的に向上
空力性能の最適化

TOYOTA GAZOO Racing Europe(TGR-E)がモータースポーツで培った知見と風洞実験を駆使して開発した空力パーツを装備:
- カーボンフロントスポイラー
- カーボンフロントカナード
- フロントセンターフラップ
- GR Supra GT4を彷彿させるスワンネック構造のカーボンリヤウイング
- カーボンボンネットダクト(脱着式インナーダクト採用)
これらにより前後の空力バランス、ダウンフォース、ドラッグを最適化し、接地性とハンドリング性能を大幅に向上させています。
タイヤ・ホイールの特別仕様
- 10mm拡幅したMICHELIN PILOT SPORT CUP 2を採用
- フロント19インチ、リヤ20インチの軽量ホイール
- ホイールにはTGR(TOYOTA GAZOO Racing)ロゴを刻印
- コーナリング時の安定性と限界性能をさらに向上
内装の特別装備

レカロ製カーボンフルバケットシート「RECARO Podium CF」

- シートパッドにアルカンターラ®素材を使用
- 運転席シートを赤色として、ドライバーオリエンテッドコクピットを強調
- 高Gでも体をしっかりホールドし、正確なドライビングをサポート
アルカンターラ®素材の多用
- ステアリングホイール
- ドアトリム
- センターコンソールニーパッド
- センターアームレスト
- シフトノブ・ブーツ
- インストルメントパネル中央部
その他の特別装備
- 赤色シートベルト
- 専用カーボンスカッフプレート
5. 生産終了の理由と背景を徹底解説
環境規制強化とカーボンニュートラルの流れ
GRスープラ生産終了の最大の理由は、世界的な環境規制の強化です。特に欧州では2035年に実施予定の環境対応政策があり、高性能な内燃機関を搭載するスポーツカーの規制適合は極めて困難とされています。
主な環境規制の課題:
- CO2排出量の大幅削減要求
- 厳格化する排ガス規制への対応
- EV化を促進する政策の加速
高出力エンジンを搭載するスポーツカーにとって、これらの規制をクリアしながら魅力を維持することは技術的にもコスト的にも大きな障壁となっています。
衝突安全性強化と自動運転技術への対応
近年、自動車業界では衝突安全性の強化と自動運転技術の導入が急速に進んでいます。これらの技術をスポーツカーに組み込むには以下の課題があります:
- 安全装備の追加による重量増加
- 自動運転センサー類の搭載スペース確保
- 純粋なドライビングプレジャーとの両立の難しさ
- 開発コストの大幅な増加
スポーツカーの本質である「軽量・コンパクト・高性能」という理念と、現代の安全基準を両立させることが困難になってきているのが実情です。
BMWとの契約満了とマグナシュタイアでの生産終了
A90型GRスープラは、BMW系の生産委託会社「マグナシュタイア」で製造されていました。この契約が2026年で満了を迎えることも、生産終了の大きな要因の一つです。
実際に、プラットフォームを共有するBMW「Z4」も同時期に生産終了を発表しており、両車の運命が同じタイミングで決まったことは偶然ではありません。
市場動向とスポーツカー需要の変化
近年、世界的にSUVやクロスオーバーモデルの需要が高まる一方で、2ドアスポーツカーの市場は縮小傾向にあります。特に若年層の車離れや、実用性を重視する購買傾向が強まっており、純粋なスポーツカーの販売台数を維持することが難しくなっています。
6. 納車遅延問題とその影響
A90ファイナルエディションの納車トラブル
2025年10月時点で、実は「A90ファイナルエディション」が顧客向けに納車できていないという情報が明らかになりました。当初は2025年10月以降にデリバリー開始予定でしたが、「とある理由」により納車が大幅に遅れている状況です。
海外生産モデルの日本登録問題
海外で生産されるモデルが日本での登録ができなくなる例は、実は珍しくありません。主な理由として以下が考えられます:
登録遅延の主な要因:
- 日本の保安基準への適合確認作業の遅れ
- 型式認証手続きの遅延
- 特別仕様車ゆえの追加検査項目
- 輸入通関手続きの複雑化
特にA90ファイナルエディションのような大幅な改良を施したモデルは、通常モデルとは別の認証プロセスが必要となるため、予想以上に時間がかかるケースがあります。
購入者にとっては待ち焦がれる状況が続いていますが、トヨタ側も早期の納車実現に向けて対応を進めていると考えられます。
7. スープラ復活の可能性を探る
トヨタのスポーツカー戦略は継続中
生産終了が惜しまれるGRスープラですが、復活の可能性はゼロではありません。その根拠となる要素を見ていきましょう。
復活を期待させる要素:
- GR86の次期モデル開発
- 弟分のGR86は次期モデルへのモデルチェンジを控えている
- トヨタのスポーツカーラインナップ維持の姿勢を示す
- GRブランドの好調
- GRカローラ、GRヤリスは好評を博している
- 販売実績も良好で、GRブランドへの投資は継続
- 次期LFAの開発
- 2025年8月に「レクサス・スポーツコンセプト」が発表
- トヨタグループ全体でスポーツカー開発を継続している姿勢
- 豊田章男会長(モリゾウ)の影響力
- スポーツカーへの情熱を持つモリゾウがGR事業を牽引
- 「クルマは楽しくなくちゃいけない」という哲学の継続
次世代スープラの可能性
次世代スープラが実現するとすれば、以下のような方向性が考えられます:
予想される次世代スープラの特徴:
- 電動化の可能性:ハイブリッドまたはプラグインハイブリッドシステムの採用
- 自社開発への回帰:トヨタ独自のプラットフォーム使用の可能性
- レクサスとの技術共有:次期LFAで開発される技術の活用
- GRブランドとしての展開:モータースポーツで培った技術のフィードバック
特に注目すべきは、トヨタが水素エンジンの開発を進めている点です。「GRカローラ H2コンセプト」で示されたように、環境性能とスポーツ性能を両立する新たな道を模索しています。
8. まとめ|日本のスポーツカー文化の今後
スープラ生産終了が意味するもの
2026年3月のGRスープラ生産終了は、単に一つのモデルが姿を消すだけではなく、日本の自動車産業におけるスポーツカー文化の転換点を象徴しています。
日産GT-Rも2025年8月で生産終了しており、日本を代表する2大スポーツカーが相次いで生産終了となることは、時代の大きな変化を示しています。
スープラが残した遺産
約47年にわたるスープラの歴史は、以下のような貴重な遺産を残しました:
技術的遺産:
- 直列6気筒エンジンの魅力と可能性
- FRレイアウトの追求
- チューニングベースとしての文化形成
文化的遺産:
- 映画「ワイルド・スピード」シリーズでの活躍
- グローバルなスポーツカーコミュニティの形成
- モータースポーツでの実績
今後のスポーツカー市場展望
環境規制が厳しくなる中でも、スポーツカーへの情熱は消えることはありません。トヨタがGRブランドを継続し、次世代のスポーツカー開発に取り組んでいることは、その証明といえるでしょう。
今後のトレンド予測:
- 電動化されたスポーツカーの台頭
- 水素エンジンなど新技術の活用
- デジタル技術とアナログな走りの融合
- サーキット専用モデルの拡充
スープラの精神は、形を変えて必ず次世代に受け継がれるはずです。
購入を検討されている方へ
現在、GRスープラの購入を検討されている方は、以下の点にご注意ください:
- 在庫確認の緊急性:すでに生産台数に達している可能性があるため、早急に販売店へ問い合わせを
- 納車時期の確認:生産終了までのスケジュールを確認
- A90ファイナルエディション:納車遅延が発生しているため、最新情報を販売店で確認
- 将来的な資産価値:生産終了モデルとして、今後希少価値が高まる可能性
以上、トヨタGRスープラの生産終了に関する包括的な記事をお届けしました。約47年の歴史を持つスープラが再び復活する日を、多くのファンとともに期待したいと思います。
トヨタ自動車 GRスープラ

