2025年10月29日、ジャパンモビリティショー2025でスバルが世界初公開した「Performance-B STI concept(パフォーマンスB STIコンセプト)」が、スバルファンの心を熱く揺さぶっている。かつて多くのファンを魅了した5ドアハッチバックのWRX STIを彷彿とさせるこのコンセプトカーは、スバルの新たなエントリースポーツモデルの方向性を示唆する重要な1台となっている。
往年のWRX STIハッチバックが現代によみがえる? スバルが示す新たなスポーツモデルの可能性
Performance-B STI conceptとは? 「B」に込められた意味

Performance-B STI conceptの「B」は、スバルの象徴である「Boxer(ボクサー)エンジン」の頭文字を意味している。同時に発表された電気自動車の「Performance-E STI concept」(「E」はElectric Vehicleの頭文字)と対をなすモデルとして、内燃機関の水平対向エンジンを搭載した純粋なガソリンスポーツカーとしての存在を明確に示している。
藤貫哲朗CTO(最高技術責任者)が2025年6月1日のスーパー耐久シリーズ2025 富士24時間レースで予告していた新型スポーツモデルが、ついに実車として姿を現したのだ。
懐かしくも新しい! 3代目インプレッサWRX STI(GRB)を思わせるデザイン
Performance-B STI conceptを一目見て驚くのは、そのスタイリングだ。3代目インプレッサベースのWRX STI(GRB型)とウリふたつのプロポーションを持ちながら、現代的な解釈で仕上げられている。
ボディサイズとデザインの特徴
主要諸元:
- 全長: 4,545mm
- 全幅: 1,886mm
- 全高: 1,495mm(驚くほど低い車高)
- ホイールベース: 2,665mm
実はこのボディ、現行のクロストレックまたはインプレッサをベースとしている。これに大型のブリスターフェンダーを装着し、力強いオーバーフェンダーでワイド化することで、往年のWRX STIを超える迫力あるスタイリングを実現している。
フロントデザインの秘密

フロントフェイスを見ると、現行のクロストレックやインプレッサとは異なる要素が多数組み込まれていることに気づく。実はこのフロント周りには、レヴォーグのユニットが採用されているのだ。
- ボンネット上のエアスクープ(レヴォーグ用と推測)
- フロントバンパーのエアダクト
- ハニカムグリルで繋がれたヘッドライト間のデザイン
- 中央にスバルエンブレム、ヘキサゴンを強調したブラックバンド
- STIモデルを象徴するチェリーレッドのアクセントライン
グリルレスではなく、BEV(電気自動車)とICE(内燃機関)モデルの共用性も考慮されたデザインとなっており、量産化への現実的なアプローチが感じられる。
サイドビューとホイール

サイドから見ると、前後に装着された大型ブリスターフェンダーが圧倒的な存在感を放つ。フロント・リアともにブリスターフェンダー後部にはエアアウトレットが設けられ、機能美を追求した造形となっている。
サイドスカートも専用設計で、低重心かつワイドな印象を強調。往年のWRC(世界ラリー選手権)マシンを連想させるゴールドカラーのホイールも、スバルファンの心をくすぐる演出だ。
タイヤ・ホイール仕様:
- タイヤ: ブリヂストン POTENZA RE-71RS 255/40R18
- ホイール: BBS鍛造18インチ(STI他モデルと同様)
- ブレーキ: ドリルドディスク+ブレンボ製シルバー6ポットキャリパー
- サスペンション: 倒立式(インバーテッド)ショックアブソーバー
あえて18インチサイズを採用している点も注目だ。これは「アフォーダブル(手の届く価格)」を実現するための現実的な選択と考えられる。
リアデザイン
リアには巨大なウイングが装着され、WRC時代のインプレッサやランサーエボリューションを思い起こさせる。リアランプ周りを見れば、ベースがクロストレック/インプレッサであることが分かるが、専用のディフューザーと中央2本出しマフラー(STIロゴ入り)により、完全なるスポーツモデルとして完成されている。
パワートレインの謎と期待 - 6速MTは確定!
スバルは詳細なスペックを明らかにしていないが、いくつかの重要な情報が公開されている。
確定している要素
- 水平対向ターボエンジン(気筒数・排気量は未公表)
- シンメトリカルAWD(スバルの四輪駆動システム)
- 6速マニュアルトランスミッション(室内から確認可能)
- 手引きサイドブレーキ
- DCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)のスイッチ(センターコンソールに確認)
車内を覗くと、6速MTのシフトノブとその後方にDCCDスイッチが見える。これは前後駆動力配分を任意に調整できる本格的なシステムで、かつてのWRX STIに搭載されていた走りのためのメカニズムだ。
エンジンは何を搭載するのか?
現時点で有力な候補は2つ考えられる:
1. 現行FA24型 2.4リッター水平対向4気筒ターボ
- 現行WRX S4に搭載(275PS/350Nm)
- 即座の量産化が可能
2. 開発中の新型水平対向エンジン
- スバルが開発中と発表済み
- 詳細は不明だが、より効率的でパワフルな可能性
インテリアも本気モード - レカロシート採用
室内には、S210などにも採用されていたレカロ製カーボンバックシートが装着されている。これは単なる展示用ではなく、走りに対する本気度を示す装備だ。
シンプルで機能的なインテリアは、ドライビングに集中できる空間を提供する。マニュアルシフトと手引きサイドブレーキという「アナログな操作感」も、運転する喜びを追求した結果といえるだろう。


「今あるアセットの組み合わせ」というコンセプト
Performance-B STI conceptの最大の特徴は、「スバルが現在持っている技術資産を柔軟にアレンジする」というアプローチだ。
使用されているパーツの出自
- ボディベース: クロストレック/インプレッサ
- フロント周り: レヴォーグ
- ホイール: STIコンプリートカー「Sシリーズ」
- ブレーキ: ブレンボ製(STI系共通パーツ)
- シート: レカロ製カーボンバックシート(S210採用品)
既存のパーツを最大限活用することで、開発コストを抑え、現実的な価格での市販化を目指している。これは単なるコスト削減ではなく、「手の届くスポーツカー」を提供するための戦略的判断だ。
現行WRXとの棲み分け - 新たなエントリースポーツの誕生
では、既存のWRXとどう差別化されるのか?
現行WRX S4/STI Sport Rの特徴
- インプレッサから独立した上級モデル
- グランツーリスモとしての快適性・高級感
- 価格帯: 600万円台~(STI Sport Rは500万円台後半)
- 洗練された大人のスポーツセダン
Performance-B STI conceptが目指す方向
- よりコンパクトで軽量なボディ(クロストレックベース)
- シンプルで手頃な価格設定
- カスタマイズの自由度が高い
- 純粋な「運転する楽しさ」に特化
スバルの商品事業本部PGMの小林正明氏は「コンパクトな軽量ボディを使うことでより運転が楽しくなる」と明言しており、サイズと重量を抑えることで機敏なハンドリングを実現する意図が明確だ。
また、スバルBRZ(FRスポーツ)との棲み分けも考慮されている。BRZは自然吸気エンジンで「刺激が足りない」と感じるユーザーに対し、ターボエンジン+AWD+MTという組み合わせは、まったく異なる走りの楽しさを提供する。
スバルファンが待ち望んでいたモデル - 5ドアWRXの復活
Performance-B STI conceptは、まさにスバルファンが長年待ち望んでいたモデルといえる。
なぜ5ドアハッチバックが求められるのか?
- 実用性とスポーツ性の両立
- 日常使いしやすい荷室空間
- 家族持ちでも選びやすい
- 歴代モデルへのノスタルジー
- 初代~3代目インプレッサWRX STIはハッチバック
- WRC(世界ラリー選手権)で活躍したGDB、GRB型への憧れ
- 現行ラインナップにない選択肢
- WRXは4ドアセダンのみ
- レヴォーグは実用ワゴン寄り
- BRZはFRクーペ
「こんなスバルを待っていたよ」という声が会場でも多数聞かれたという。往年のインプレッサWRX STIハッチバックのDNAを受け継ぎながら、現代の技術と安全性能を融合させた、まさに「真のスバル・スポーツ」の復活といえるだろう。
カスタマイズの自由度 - アフターパーツ市場への期待
Performance-B STI conceptのもう一つの魅力は、サードパーティーのアフターパーツメーカーと共に「クルマを育てる」という新しい楽しみ方だ。
想定されるカスタマイズ例
エアロパーツ系:
- オーバーフェンダー(展示車レベルまで拡大可能)
- リアウイング(可変式・固定式など選択肢多数)
- フロント/リアバンパー
- サイドスカート
走行性能系:
- ブレーキキット(ブレンボ大容量など)
- サスペンションキット(車高調、ダンパー)
- エキゾーストシステム
- ECUチューニング・ソフトウェアアップデート
インテリア系:
- スポーツシート(レカロ、ブリッドなど)
- ステアリングホイール
- メーターパネル
ベースモデルを購入し、予算と好みに応じて段階的にグレードアップしていく楽しみ方ができる。これは往年のチューニングカー文化の復活とも言える。
価格はいくらになるのか? - 現実的な予想
詳細な価格は未発表だが、「アフォーダブル(手の届く価格)」を強調していることから推測できる。
競合モデルとの価格比較
- 現行WRX S4: 約470万円~
- WRX STI Sport R: 約580万円~
- レヴォーグ STI Sport: 約450万円~
- スバルBRZ: 約330万円~480万円
Performance-B STI conceptの予想価格
シンプルなベースグレードとして400万円~500万円台前半が現実的なラインと思われる。
展示車のようなフル装備版だと600万円~700万円台に達する可能性もあるが、それはあくまでカスタマイズ後の姿。エントリーグレードを手頃な価格で提供し、ユーザーが自由にカスタマイズできる選択肢を用意する、という戦略が最も理にかなっている。
藤貫CTOも「最近のスポーツモデルはすごく高い。だからなるべく手頃な価格にしたい」と明言しており、価格設定への強い意識が感じられる。
スーパー耐久での実証 - 技術的バックグラウンド
Performance-B STI conceptのもう一つの強みは、スーパー耐久シリーズでの実戦投入を前提としていることだ。
2025年6月1日、富士24時間レースで藤貫CTOが予告した際、すでにレース参戦を視野に入れた開発が進んでいることが示唆されていた。レースでの実戦データをフィードバックし、市販車の性能向上に活かす。これはスバルが長年WRCで培ってきた「レースで鍛え、市販車に還元する」という伝統的な開発手法の復活ともいえる。
電動化時代における内燃機関スポーツの意義
Performance-E STI concept(電気自動車)と並んで発表されたことにも、大きな意味がある。
スバルは電動化を推進する一方で、内燃機関のスポーツモデルも継続する「マルチパスウェイ戦略」を明確に打ち出した。これは、多様な価値観を持つユーザーに選択肢を提供するという、成熟した自動車メーカーとしての姿勢だ。純粋な内燃機関のスポーツカーが規制強化で厳しくなる中、スバルは「ボクサーエンジン+AWD+MT」という伝統的なパッケージを諦めない姿勢を示した。これは世界中のスバルファンにとって、何よりも心強いメッセージだろう。
ジャパンモビリティショー2025での反響
会場では、このPerformance-B STI conceptが最も注目を集めるモデルの一つとなっている。SNSでも「待ってた!」「絶対買う!」「これぞスバル!」といった熱い反応が多数寄せられており、潜在的な購入意欲の高さが伺える。
今後のスケジュールと展望
市販化のタイムラインは明言されていないが、いくつかのシナリオが考えられる。
楽観的シナリオ
- 2026年内: 市販化正式決定発表
- 2027年: 市販モデル発売開始
- 2028年以降: グレード展開・特別仕様車投入
慎重シナリオ
- 2026~2027年: さらなるブラッシュアップ・スーパー耐久での実証
- 2028年: 市販化決定
- 2029年: 発売開始
いずれにせよ、ユーザーの反応が大きな鍵を握る。ジャパンモビリティショー2025での評判、事前予約の状況、そしてスバルの経営判断が、この夢のクルマを現実にするかどうかを決定する。
まとめ - スバルスポーツの新時代の幕開け
Performance-B STI conceptは、単なるコンセプトカーではない。それはスバルが今後どのようなスポーツモデルを展開していくのか、その方向性を明確に示す重要なメッセージだ。
このモデルが示す未来:
- 手の届くスポーツカー - シンプルなベースモデルで価格を抑制
- カスタマイズの自由 - ユーザーが自分好みに育てる楽しさ
- 内燃機関の継続 - ボクサーエンジン+AWD+MTの伝統を守る
- 実用性との両立 - コンパクトボディながら5ドアの利便性
- レースフィールドバック - スーパー耐久での実戦データ活用
長年スバルファンが待ち望んでいた5ドアハッチバックのWRX STI的存在が、現代の技術と思想で復活する可能性を、このコンセプトカーは強く示唆している。
ジャパンモビリティショー2025の会場に足を運び、実車を目にすることは、この夢のクルマを現実に近づける第一歩だ。そしてSNSでの拡散、スバルへの直接的なフィードバック、何よりも「欲しい!」という声を上げ続けることが、市販化への最大の後押しとなる。
「スバルらしさ全開の大注目モデル」として登場したPerformance-B STI concept。その行方から、今後も目が離せない。


 
	 
		 
			 
			 
			 
			 
			 
			 
			