世界最大級の自動車メーカーであるトヨタ自動車が、電気自動車(EV)の生産計画を延期し、ガソリン車SUVの生産拡大に舵を切ったことが明らかになりました。
EV計画延期の概要
トヨタは当初2027年に開始予定だった大型電気SUVの生産を2028年まで延期することを決定しました。この決定は、EV市場の成長鈍化と、同社のガソリン車SUV「グランドハイランダー」への予想を上回る需要が背景となっています。
延期される電気SUVは、当初インディアナ州プリンストン工場での生産が計画されていましたが、現在はケンタッキー州ジョージタウン工場での生産に変更されています。同工場では、2026年後半から別の電気SUVの生産も開始される予定となっており、当初の計画より約6ヶ月遅れる見込みです。
参考:ブルーバーグ
グランドハイランダーの驚異的な売上成長
今回の計画変更の主要因となったのは、トヨタの中型SUV「グランドハイランダー」の好調な売上です。2025年6月の販売データによると、グランドハイランダーは前年同月比92%の売上増加を記録し、トヨタの非トラック車両では第2位の売上を達成しました。
グランドハイランダーの販売状況
- 2025年6月:前年同月比92%の売上増加
- トヨタの非トラック車両で第2位の売上
- 月末時点での在庫は3日分のみ
- ガソリン車とハイブリッド車の両方で好調
この驚異的な売上成長により、ディーラーの在庫は月末時点でわずか3日分まで減少し、需要に対する供給不足が深刻化していました。トヨタは今回の生産計画変更により、ジョージタウン工場でのグランドハイランダー生産能力を大幅に拡大することが可能になります。
EV市場の現状と課題
トヨタの計画変更は、米国EV市場全体の成長鈍化を反映しています。同社を含む多くの自動車メーカーが予想していたようなEV需要の急速な拡大は実現せず、代わりにハイブリッド車やガソリン車への需要が継続的に高まっています。
トヨタ自身のEV「bZ4X」(現在は「bZ」に改名)は2025年第1四半期に好調な売上を記録しましたが、米国EV市場全体の成長率は以前の年と比較して鈍化しています。これに対して、ハイブリッド車セグメントは急速な成長を続けており、従来のガソリン車、トラック、SUVも依然として高い人気を維持しています。
トヨタの多エネルギー戦略
トヨタは長年にわたり、単一の動力源に依存するのではなく、多様なエネルギー源を活用するアプローチを採用してきました。同社のショールームには、電気自動車、水素燃料電池車、ハイブリッド車、従来のガソリン車が並んでいます。
今回の決定は、この多エネルギー戦略の実践例として位置づけられ、市場の需要パターンに応じて生産体制を柔軟に調整する同社の能力を示しています。トヨタは将来的な電気自動車への移行を完全に放棄したわけではなく、市場の成熟度に合わせて段階的に進めていく方針を維持しています。
自動車業界への影響
トヨタの今回の決定は、自動車業界全体の動向を反映しており、他の自動車メーカーにも影響を与える可能性があります。消費者の嗜好の変化、充電インフラの整備状況、政府の政策動向などが複雑に絡み合い、EV移行のペースは当初の予想よりも緩やかになっています。
同時に、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車(PHEV)が過渡期の技術として重要な役割を果たしており、完全な電気自動車への移行には時間が必要であることが明確になっています。
今後の展望
トヨタは2028年からの大型電気SUV生産開始に向けて、技術開発と市場環境の整備を続けていく予定です。同社は電気自動車分野での競争力向上を図りながら、現在の市場需要に応える形でガソリン車とハイブリッド車の生産体制を強化していきます。
この戦略的な判断により、トヨタは短期的な市場需要への対応と長期的な技術開発の両方を効果的に進めることができると期待されています。消費者にとっては、人気の高いグランドハイランダーの供給安定化が実現し、選択肢の幅が広がることになります。
※本記事は公開情報に基づいて作成されており、最新の情報については各社の公式発表をご確認ください。