2024年5月27日、国土交通省と独立行政法人自動車事故対策機構(ナスバ)は、2024年度の自動車アセスメント「自動車安全性能2024」の結果を発表し、優れた成績を収めた車種を表彰する「自動車アセスメント表彰式」を開催しました。この中で、最高の栄誉である「ファイブスター大賞」に、トヨタ自動車の「クラウンセダン」が輝きました。
自動車選びにおいて、デザインや走行性能、燃費と並び、ますます重要視されているのが「安全性」です。万が一の事故の際に乗員や歩行者を守る性能、そして事故を未然に防ぐ技術は、安心してカーライフを送るための必須条件と言えるでしょう。
本記事では、この「自動車安全性能2024」の結果を基に、ファイブスター大賞を受賞したクラウンセダンの卓越した安全性、そしてファイブスター賞に輝いた他の注目車種、さらには自動車アセスメントの評価内容やその重要性について、詳しく解説していきます。安全な車選びのための決定版ガイドとして、ぜひ最後までご覧ください。
自動車アセスメント「自動車安全性能」とは?その評価の仕組みと重要性
まず、「自動車アセスメント(JNCAP:Japan New Car Assessment Program)」とは何か、その概要と意義について理解を深めましょう。
国土交通省とナスバが実施する公平・中立な評価
自動車アセスメントは、国土交通省と、その指導のもと独立行政法人自動車事故対策機構(ナスバ)が一体となって実施している自動車の安全性能評価プロジェクトです。ユーザーが安全な自動車を選択しやすい環境を整備するとともに、自動車メーカーによるより安全な自動車の開発を促進することを目的としています。
市販されている自動車を実際に購入し、様々な条件下での衝突試験や予防安全性能試験を行うことで、その安全性を客観的に評価し、結果を公表しています。この情報は、消費者が車を選ぶ際の重要な指標となるだけでなく、メーカーにとっても自社製品の安全性をアピールする機会となり、さらなる安全技術の開発競争を促す効果があります。
評価は大きく3つの分野から構成
自動車安全性能の評価は、主に以下の3つの大きな分野で行われ、それぞれの評価結果を総合して最高評価の「ファイブスター(★★★★★)」などが決定されます。
- 予防安全性能評価:
- 衝突被害軽減ブレーキ(対車両、対歩行者[昼間・夜間]、対自転車[昼間・夜間])
- 車線逸脱警報(LDW)/車線逸脱抑制装置(LKA)
- 後方視界情報提供装置(バックカメラなど)
- ペダル踏み間違い時加速抑制装置
- 高機能前照灯(アダプティブヘッドライトなど)
- これらの装置が、事故を未然に防ぐためにどれだけ効果的に機能するかを評価します。特に近年では、夜間の歩行者や自転車に対する衝突被害軽減ブレーキの性能が重視される傾向にあります。
- 衝突安全性能評価:
- 乗員保護性能:
- フルラップ前面衝突試験(運転席・助手席)
- オフセット前面衝突試験(運転席)
- 側面衝突試験(運転席)
- 後面衝突頸部保護試験(むち打ち傷害に対する評価、運転席・助手席)
- 歩行者保護性能:
- 頭部保護性能試験
- 脚部保護性能試験
- シートベルト着用警報(全席)
- 万が一事故が発生した際に、乗員や衝突した歩行者の傷害をどれだけ軽減できるかを評価します。ダミー人形に搭載されたセンサーからのデータに基づき、詳細な傷害レベルが計測されます。
- 乗員保護性能:
- 事故自動緊急通報装置の評価:
- 事故発生時に自動的に緊急通報を行うシステムの搭載状況とその機能(エアバッグ展開連動、手動通報機能など)を評価します。早期の救助活動に繋がる重要な機能です。
これらの評価項目を総合的に点数化し、その合計点に応じて「ファイブスター賞(★★★★★)」、「フォースター賞(★★★★)」といった形で評価ランクが与えられます。そして、その年度で最も高い総合得点を獲得した車種には、最高の栄誉である「ファイブスター大賞」が授与されるのです。
栄えある「ファイブスター大賞」はトヨタ クラウンセダン!その圧倒的な安全性能の秘密
2024年度の自動車アセスメントにおいて、数ある評価対象車の中で頂点に立ったのが、トヨタのフラッグシップモデルの一つである「クラウンセダン」です。予防安全で83.78点(85.8点満点)、衝突安全で95.52点(100点満点)、事故自動緊急通報装置で8点(8点満点)となりました。総合評価で184.30点(193.8点満点)という極めて高い得点を獲得し、見事「ファイブスター大賞」の栄冠を手にしました。
なぜクラウンセダンは最高得点を獲得できたのか?
クラウンセダンが最高得点を獲得できた背景には、トヨタの長年にわたる安全技術への探求と、最新技術の積極的な採用があります。特に高く評価されたのは、万が一の対人事故の際に歩行者の傷害を軽減するための技術です。
- 歩行者傷害軽減ボディ構造: ボンネットやフェンダー、バンパーといった車体前部において、衝撃を吸収しやすい構造を採用しています。これにより、衝突時の歩行者への衝撃エネルギーを効果的に分散・吸収し、頭部や脚部へのダメージを最小限に抑えることを目指しています。これは、事故発生時の被害を少しでも小さくしようという思想の表れです。
- ポップアップフードシステムの採用: 歩行者との衝突を検知すると、瞬時にエンジンフードの後端を持ち上げる画期的なシステムです。フードとエンジンルーム内の硬い部品との間に空間を作り出すことで、衝突した歩行者の頭部がエンジンなどの硬い部分に直接当たることを防ぎ、頭部への衝撃を大幅に緩和します。この技術は、特に歩行者頭部保護性能試験において優れた成績を収める要因となりました。
これらの歩行者保護技術に加え、クラウンセダンにはトヨタの先進安全技術パッケージ「Toyota Safety Sense」が標準装備されています(グレードにより内容は異なります)。これには、以下のような機能が含まれます。
- プリクラッシュセーフティ(PCS): 車両、歩行者(昼夜)、自転車運転者(昼夜)、自動二輪車(昼間)を検知し、衝突の可能性が高いと判断した場合に警報やブレーキ制御で衝突回避を支援、または被害軽減を図ります。
- レーントレーシングアシスト(LTA)/レーンディパーチャーアラート(LDA): 車線の中央を走行するようにステアリング操作を支援したり、車線を逸脱しそうになると警報やステアリング制御を行います。
- レーダークルーズコントロール(全車速追従機能付): 先行車との車間距離を保ちながら追従走行を支援します。
- アダプティブハイビームシステム(AHS)/オートマチックハイビーム(AHB): 先行車や対向車を検知し、ハイビームの照射範囲を自動的に調整または切り替えることで、夜間の視認性を高めます。
- ロードサインアシスト(RSA): 道路標識をカメラで認識し、ディスプレイに表示することで見落とし防止を支援します。
これらの多岐にわたる予防安全技術と、堅牢なボディ構造に代表される衝突安全技術が高次元で融合していることが、クラウンセダンのファイブスター大賞受賞に繋がったと言えるでしょう。
トヨタの安全への揺るぎない哲学「安全なクルマづくり」
トヨタは、「交通事故死傷者ゼロ」の究極の目標に向け、安全なクルマづくりを長年にわたり追求してきました。その根底には、「人を中心としたクルマづくり」という思想があり、ドライバーだけでなく、同乗者、そして歩行者など、クルマに関わるすべての人々の安全を最優先に考えています。
今回のクラウンセダンのファイブスター大賞受賞は、そうしたトヨタの安全への真摯な取り組みが、第三者機関によって客観的に高く評価された証と言えます。
「ファイブスター賞」を獲得したその他の注目車種たち
「自動車安全性能2024」では、クラウンセダンの他にも3車種が最高評価の「ファイブスター賞」を受賞しています。これらの車種もまた、極めて高い安全性能を有していることが証明されました。
- マツダ CX-80: マツダから新たに登場した3列シートSUV「CX-80」。マツダは「人間中心の安全思想」に基づき、危険認知から衝突回避・被害軽減までを一貫してサポートする安全技術「i-ACTIVSENSE(アイ・アクティブセンス)」を搭載しています。CX-80もこの思想を受け継ぎ、ドライバーが安全に運転できる環境を提供するとともに、万が一の際の乗員保護性能、歩行者保護性能を高めています。広い室内空間を持つSUVでありながら、高い安全性を確保している点が評価されました。
- 本田技研工業 シビック: 世界戦略車として長い歴史を持つホンダ「シビック」。現行モデルは、先進の安全運転支援システム「Honda SENSING(ホンダ センシング)」を標準装備。衝突被害軽減ブレーキ(CMBS)やアダプティブクルーズコントロール(ACC)、車線維持支援システム(LKAS)など、多彩な機能でドライバーをサポートします。また、衝突安全性能においても、ホンダ独自の衝突安全技術「G-CON(ジーコン)」により、高い乗員保護性能を実現しています。スポーティーな走りとともに、確かな安全性が魅力です。
- 本田技研工業 WR-V: 2024年に日本市場に導入された新型コンパクトSUV「WR-V」。こちらも「Honda SENSING」を搭載し、コンパクトながらも充実した安全装備を備えています。日常生活での使いやすさと、安心感を両立させたモデルとして、ファイブスター賞を獲得しました。都市部での運転からレジャーまで、幅広いシーンでの安全なドライブをサポートします。
これらのファイブスター賞受賞車は、それぞれのメーカーが持つ安全技術の粋を集めたモデルであり、ユーザーに高い安心感を提供してくれるでしょう。
2024年度に評価されたその他の車種
今回の「自動車安全性能2024」では、上記のファイブスター賞受賞車以外にも、以下の車種が評価対象となりました。
- 本田技研工業 フリード: コンパクトミニバンとして人気の高いホンダ「フリード」。ファミリー層からの支持も厚く、安全性能への関心も高い車種です。「Honda SENSING」を搭載し、家族みんなが安心して乗れるクルマを目指しています。
- スズキ フロンクス: スズキから新たに市場投入されたコンパクトSUV「フロンクス」。スズキの予防安全技術「スズキ セーフティ サポート」を搭載し、運転のしやすさと安全性の両立を図っています。
これらの車種も、一定の安全基準を満たしており、それぞれの特性に応じた安全装備が施されています。ファイブスター賞には届かなかったものの、ユーザーが安全性を比較検討する上で重要な情報となります。
なぜ自動車アセスメントは私たちにとって重要なのか?
自動車アセスメントの結果は、単にどの車が安全かを示すだけでなく、私たち消費者、自動車メーカー、そして社会全体にとって大きな意味を持っています。
消費者にとって:客観的で信頼できる「安全な車選びの羅針盤」
日々進化する自動車の安全技術は、専門家でなければその詳細や効果を正確に把握することが難しくなっています。自動車アセスメントは、そうした複雑な安全性能を「点数」や「ランク」という形で分かりやすく示してくれるため、消費者は公平かつ客観的な情報に基づいて、より安全な車を選ぶことができます。
カタログスペックだけでは分からない実際の衝突時の安全性や、予防安全機能の効果を比較検討できることは、賢い車選びに不可欠です。特に、家族を乗せる機会が多い方や、運転に不安を感じる方にとっては、この上なく重要な情報源となるでしょう。
自動車メーカーにとって:安全技術開発へのモチベーション向上
自動車アセスメントで高い評価を得ることは、メーカーにとって自社の技術力の高さを証明し、ブランドイメージを向上させる絶好の機会となります。そのため、メーカー各社はアセスメントの評価基準を意識し、より厳しい社内基準を設けて安全技術の開発にしのぎを削っています。
この健全な競争が、より安全な自動車の普及を加速させ、結果として社会全体の安全水準向上に貢献しています。
社会全体にとって:交通事故の削減と被害軽減への貢献
安全性能の高い自動車が普及することは、交通事故の発生件数そのものを減らすだけでなく、万が一事故が起きてしまった場合の被害を最小限に抑えることにも繋がります。自動車アセスメントは、そうした安全なクルマ社会の実現に向けた重要な取り組みの一つと言えるのです。
自動車の安全技術は日進月歩で進化しており、それに伴い自動車アセスメントの評価項目や基準も年々高度化・多様化しています。
より現実に即した、より厳しい評価基準へ
近年では、夜間の歩行者や自転車に対する衝突被害軽減ブレーキの性能、より複雑な交差点での衝突回避支援技術、ドライバーの異常を検知して事故を未然に防ぐシステムなど、より現実に即した厳しいシナリオでの評価が導入されつつあります。
また、衝突安全性能においても、実際の事故で発生しやすい様々な衝突形態に対応できるよう、試験方法や評価基準が見直されています。
自動運転技術と安全評価の新たな課題
レベル2以上の運転支援技術が普及し、将来的な自動運転社会の実現が視野に入ってくる中で、これらのシステムがどれだけ安全に機能するかを評価する新たな基準作りも急務となっています。サイバーセキュリティ対策や、システム異常時の対応なども、今後の重要な評価ポイントとなるでしょう。
自動車アセスメントは、こうした技術の進化に追従し、常に最新かつ最善の評価方法を模索し続けることで、その信頼性と有効性を維持していく必要があります。
編集部から一言
今回の「自動車安全性能2024」では、トヨタ「クラウンセダン」が最高の栄誉である「ファイブスター大賞」を受賞し、その卓越した安全性が改めて示されました。また、マツダ「CX-80」、ホンダ「シビック」、「WR-V」も「ファイブスター賞」を獲得し、高い安全性能を誇ることが証明されました。
これらの結果は、自動車メーカー各社が乗員だけでなく歩行者も含めた全ての交通参加者の安全を追求し、日々技術開発に邁進している努力の賜物です。
私たち消費者は、こうした自動車アセスメントの結果を参考に、自身のライフスタイルや使用目的に合った、より安全な一台を選ぶことが重要です。デザインや価格、性能だけでなく、「安全」という視点をしっかりと持って車選びを行うことが、悲しい交通事故を減らし、より安心・安全なカーライフ、そして社会を実現するための第一歩となるでしょう。
今後も国土交通省とナスバによる自動車アセスメントの取り組みに注目し、発表される最新情報を活用して、賢明な車選びを心がけましょう。あなたの選択が、未来の安全なクルマ社会を形作る一助となるのです。
NASVA ニュースリリース
https://www.nasva.go.jp/gaiyou/pdf/2024/20241106_1.pdf
https://www.nasva.go.jp/gaiyou/pdf/2025/20250527_1.pdf
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