Honda 0(ゼロ)シリーズとは何か?コンセプト・デザイン・特徴から、2026年3月に発表された北米向けEV3車種(Honda 0 SUV・Honda 0 Saloon・Acura RSX)の開発中止と最大2.5兆円の損失、ハイブリッド回帰の戦略転換まで、最新情報をわかりやすく解説します。
Honda 0(ゼロ)シリーズとは?ホンダが描いた次世代EVの全貌
Honda 0シリーズとは、ホンダが2024年1月のCES(Consumer Electronics Show)で発表した、新時代を象徴する純電気自動車(BEV)のブランドラインアップです。「ZERO」という名称には、「ゼロからの挑戦」という意味が込められており、これまでのホンダのEVの在り方を根本から見直して作られた、いわば"次世代ホンダEV"の総称です。

Honda 0シリーズのコンセプトを貫くのが**「Thin(薄い)、Light(軽い)、Wise(賢い)」** という3つの哲学です。
- Thin(薄い): EVに多い重心の高さや車高の厚みを排除し、スポーティで低重心のシルエットを実現する
- Light(軽い): EVの弱点である車重の増加を抑え、走りの軽快感とエネルギー効率を両立させる
- Wise(賢い): 先進的なAD(自動運転)・ADAS(先進運転支援システム)やIoTとの連携により、ドライバーと車が知性的につながる体験を提供する

さらにHonda 0シリーズには、ホンダ独自のOS「ASIMO OS」が搭載される予定でした。これはAIスタートアップ「Helm.ai」との協力により開発されたもので、クルマを単なる移動手段ではなく、"動く知的空間"へと進化させる技術基盤として注目を集めていました。また、AWS(Amazon Web Services)との連携によるAI機能や、充電ネットワーク「IONNA」、北米標準規格であるNACS対応充電口の採用なども計画されていました。
このシリーズは当初、2026年を皮切りに順次発売が予定されており、2025年のCESや「Japan Mobility Show 2025」でも実車に近いプロトタイプが公開されるなど、世界中の自動車ファンの注目を集めていました。
新しい「H」エンブレムが示すもの――電動化の新時代へ
Honda 0シリーズの登場とともに、ホンダは新しい「H」エンブレムを発表しました。1963年以来、60年以上にわたって使われてきた従来の「H」マークを刷新し、よりフラットでシャープなデザインに生まれ変わりました。

この新エンブレムは、単なるロゴ変更ではありません。ホンダが電動化時代における「新たな章の幕開け」を象徴するブランドシンボルとして位置づけています。F1で使われるHエンブレムのデザイン哲学も踏まえ、シンプルながら力強さを表現。Honda 0シリーズを起点に、HEV(ハイブリッド)やBEVといったさまざまな電動モデルにこの新エンブレムが採用されていく予定です。
Honda 0 SALOON(サルーン)――幻となった未来のフラグシップ
CES 2024で世界初公開されたHonda 0 SALOONは、Honda 0シリーズの中でもフラグシップと位置づけられたセダン型EVです。「Thin, Light, Wise」の哲学を最も色濃く体現したモデルで、そのスタイリングは往年の名車「カウンタック」を彷彿とさせるほどの圧倒的な存在感を持つとして、自動車ジャーナリストからも絶賛されていました。

主な特徴は以下のとおりです。
- 超低全高・流麗なシルエット: EV特有の厚みのある車体を極限まで削ぎ落とし、スポーツカーのような低く構えたデザインを実現。全高はわずか約1,215mm(従来EVより50mm以上低い設計)
- LED照明を活用したインテリア: キャビン内はLEDを随所に配し、SF映画のような未来的空間を演出
- ASIMO OSによるAI統合: 14インチ以上の大型ディスプレイ、HUD(ヘッドアップディスプレイ)、AIによる音声対話など、最新のHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)を採用
- Virtual Power Plant(VPP)連携: 家庭や電力網とのV2H・V2G機能を活用し、EVを単なる乗り物ではなく「エネルギーデバイス」として活用する構想
2025年のJapan Mobility Show では、Honda 0シリーズのフラグシップとして三部社長みずからがステージでこのサルーンを紹介し、注目度の高さをあらためて示していました。
Honda 0 SUV(SUVモデル)――実用性と先進技術を融合
Honda 0シリーズのもう一方の主力として計画されていたのがHonda 0 SUVです。SUVというボディスタイルを採用しながらも、「Thin, Light, Wise」の理念に基づいた設計を実現。EV市場で最も需要の高いSUVセグメントにおいて、他社製EVとの差別化を図るモデルとして期待されていました。

2025年10月には量産に近い形のプロトタイプが公開され、ホンダのEV戦略の核として北米市場への2026年投入が計画されていました。ASIMO OSの搭載やNACS対応、さらには同モデルをベースとしたAcura版(Acura RSX)も計画されていたことからも、その戦略的重要性の高さがわかります。
【衝撃発表】2026年3月12日、Honda 0シリーズ北米向けEV3車種の開発・発売を中止
そして2026年3月12日、ホンダは自動車業界に衝撃を与える発表を行いました。本田技研工業の取締役代表執行役社長・三部敏宏氏が記者会見に登壇し、北米で生産を予定していたEV3車種の開発・発売中止を正式に発表したのです。
中止が決定した車種は以下の3モデルです。
| 車種名 | カテゴリ | 中止理由 |
|---|---|---|
| Honda 0 SUV | 北米向け量産EV-SUV | 事業環境の急激な変化 |
| Honda 0 Saloon | 北米向け量産EV-セダン | 同上 |
| Acura RSX | 北米向けAcuraブランドEV | 同上 |
三部社長は会見の場で「断腸の思いで中止を決断した」「血を止めるような気持ちで判断した」と語り、この決断がいかに苦渋のものであったかを率直に表現しました。

なぜ中止に?ホンダが直面した「2つの残酷な現実」
ホンダが今回のEV開発中止に踏み切った背景には、事業環境の急激な変化という2つの大きな要因がありました。
要因①:北米EV市場の想定外の失速
米国では、トランプ政権の発足後、化石燃料に関する環境規制の緩和やEV補助金の廃止・見直しが進みました。その結果、ホンダが当初想定していたEV市場の拡大スピードが大幅に鈍化。会見では三部社長が「想定していた市場規模の半分以下になった」と明言しました。これだけ市場が縮小した環境下で新たなEVの生産・販売を無理に開始することは、将来にわたる損失のさらなる拡大を招くと判断したわけです。
要因②:中国・アジア市場でのソフトウェア競争に敗北
もう一つの要因は、中国・ASEANを中心とするアジア市場での競争力の急速な低下です。中国市場では、BYDをはじめとする地場EVメーカーが急速に台頭し、SDV(ソフトウェア定義車両)の分野で圧倒的な進化を遂げています。車の価値基準が従来の「燃費・走行性能」から「UI/UX・AI機能・ソフトウェア」へとシフトする中、ホンダはこの変化への対応が遅れ、「価格に見合う商品を提供できずに競争力が低下した」と正直に認めています。さらに、EVへのリソース集中が既存の主力商品の競争力低下も招いたという自己分析も公表しています。
損失の規模と業績修正――最大2.5兆円のインパクト
今回の戦略見直しに伴い、ホンダは2026年3月期通期連結業績予想を大幅に修正しました。
| 項目 | 修正前予想 | 修正後予想 |
|---|---|---|
| 売上収益 | (修正前値) | 21兆1,000億円 |
| 営業利益 | 黒字 | 5,700億円〜2,700億円の赤字 |
| 税引前利益 | 黒字 | 6,500億円〜3,100億円の赤字 |
| 当期利益 | 3,000億円の黒字 | 最大6,900億円の赤字 |
今期の損失の内訳として、8,200億〜1兆1,200億円の営業費用(生産設備等の資産の損失計上)と、1,100億〜1,500億円の持分法による投資損失(中国での投資損失)が発生する見込みです。加えて個別業績でも3,400億〜5,700億円の特別損失が計上される予定です。
さらに来期以降も追加費用が発生する可能性があり、今年度の損失と合算すると最大2兆5,000億円という試算が公表されました。ただし現在のホンダは6兆円超の手元キャッシュを保有しており、財務基盤は一定の体力を維持しています。なお、今回の業績修正にもかかわらず、配当予想については変更しないとしている点も注目されます。
また経営責任として、社長・副社長は来期の月額報酬の30%を3カ月間自主返上し、業績連動インセンティブも不支給とすることで、年間報酬が最大30%減額されることも発表されました。
ハイブリッドへの「原点回帰」――ホンダらしさを取り戻す大英断
今回のEV開発中止は、単なる撤退ではなく、ホンダが自社最大の強みであるハイブリッド技術に集中投資する戦略的転換と見ることができます。
ホンダは今後の方針として、以下を明示しています。
- ハイブリッド車の強化を明言: 日本・米国・インドでのモデルラインナップ拡充とコスト競争力の強化を推進
- アジア市場でも次世代ハイブリッドで競争力を維持: 中国・ASEANに向けた次世代HVシステムの投入を計画
- EVは収益性・需要を見ながら長期的・柔軟に対応: 無理なEV拡大路線には固執せず、市場環境に応じて柔軟に判断する方針
これはまさに「The Power of Dreams」「How we move you.」というホンダの経営理念に立ち返り、自分たちが最もよく知っている技術領域で勝負するという、苦渋ながらも合理的な選択といえるでしょう。自動車ジャーナリストの河口まなぶ氏も「ホンダらしさを取り戻すための大英断」と評価しています。
生き残るEVプロジェクト――0シリーズαとスーパーワン
北米向けEV3車種の中止が決定した一方で、以下のプロジェクトは継続される見込みです。
Honda 0シリーズα(アルファ)
Japan Mobility Show 2025のステージ中央に展示されたこのモデルは、北米ではなくアジアで製造される予定。現時点では投入が継続される方針が示されており、Honda 0シリーズの独自デザインを継承した1台として登場することが期待されています。
スーパーワン(Super One)
N-ONE EVをベースとしたホットEVとして注目を集めているこのモデルも、引き続き販売予定とされています。コンパクトEVとして日本市場でのホンダEVの存在感を維持する役割を担う1台です。


限定3,000台EV(インサイト中国版:ENS2ベース)
中国ホンダの「ENS2」をベースとした日本限定モデルも、そのまま販売が行われる見通しです。

ソニー・ホンダ(アフィーラ)の動向は?
多くの注目を集めているソニーとホンダの合弁EV「アフィーラ(AFEELA)」については、2026年3月12日の会見の時点では「今のところ何も決まっていない」との回答にとどまりました。ただし、四輪事業の中長期戦略については2026年5月に改めて詳細が発表される予定であり、そのタイミングで関係性が明らかになると見られています。ソニー・ホンダの行方については、引き続き5月の発表に注目が集まります。

新型NSX(2027年)は生き残れるか?
ホンダのスーパースポーツカー「NSX」の次期型(フルモデルチェンジ)は、2027年発売予定の完全電動化モデルとして噂されています。現時点で伝えられている主要スペックは以下のとおりです。
| 項目 | 予定スペック |
|---|---|
| パワートレイン | BEV(純電気)・前後2モーター(e-SH-AWD) |
| 最高出力 | 約1,020ps(750kW) |
| 0-100km/h加速 | 約2.3秒 |
| 最高速度 | 約320km/h |
| 航続距離 | 約650km(WLTC) |
| 予想価格 | 2,500〜3,000万円 |
| 発売予定 | 2027年 |
ただし、Honda 0シリーズの北米向けモデル中止を受け、NSXのプログラムにも影響が出る可能性は否定できません。今後の5月発表でその動向が明らかになることが期待されます。なお、旧来のモデルラインナップとの比較では、初代NSX(280ps)・2代目NSX Type S(610ps)から3代目(約1,020ps)へと大幅な進化が予想されており、ホンダのスポーツEV技術の集大成となる可能性があります。
よくある質問(FAQ)
Q. Honda 0シリーズはもう買えないの?
北米向けの「Honda 0 SUV」「Honda 0 Saloon」「Acura RSX」の3車種は開発・発売中止が決定しました。ただし「Honda 0シリーズα」はアジア向けに継続予定です。
Q. なぜホンダはEVをやめるの?
完全撤退ではありません。北米市場の失速と中国市場でのソフトウェア競争での苦戦という2つの要因を受け、収益性の見極めと市場環境に応じた柔軟な対応にシフトしています。
Q. 今後ホンダが力を入れるのはハイブリッド?
はい。ホンダは今後、自社最大の強みである内燃機関を活用したハイブリッド技術の強化に注力する方針を明言しています。日本・米国・インドでのHV拡充が中心となります。
Q. 2.5兆円の損失でホンダは大丈夫?
ホンダは現在6兆円超の手元キャッシュを保有しており、財務基盤は一定の体力を維持しています。また今回の業績修正にもかかわらず配当予想は変更されていないため、即座に経営危機に陥るような状況ではありません。
Q. アフィーラ(ソニー・ホンダ)はどうなる?
2026年5月に予定されている四輪事業の中長期戦略発表のタイミングで詳細が明らかになる見通しです。
まとめ:Honda 0シリーズが示したもの、そしてこれから
Honda 0シリーズは、「Thin, Light, Wise」という革新的なコンセプト、新しいHエンブレム、ASIMO OSを核とするAI統合、そして圧倒的なデザインによって、世界中の注目を集めた次世代EV計画でした。
しかし2026年3月、北米向け3車種の開発・発売中止という衝撃的な決断が下されました。北米EV市場の想定外の失速と、中国でのソフトウェア競争での敗北という「2つの残酷な現実」がホンダを方向転換に追い込んだのです。
それでも今回の決断は、ずるずると損失を拡大させる前に自社の強みであるハイブリッド技術に「原点回帰」する、苦渋であれども合理的な選択と評価できます。Honda 0シリーズαやスーパーワンなど、一部のEVプロジェクトは継続される予定であり、2026年5月には四輪事業の中長期戦略も改めて発表されます。
「Honda 0 SALOON」がカウンタックを思わせる「幻の名車」として語り継がれることになるのか、それとも将来別の形で復活するのか——ホンダの次の一手に、これからも世界が注目し続けるでしょう。
参考・引用元

