日産の電動化戦略の重要な技術であるe-POWER。第3世代となる次世代e-POWERの進化と今後の展開について詳しく解説します。現行モデルからの改善点や、新型ローグ・エクストレイル、キャシュカイ、エルグランドなどの国内大型ミニバンへの搭載予定です。
第3世代となる次世代e-POWERとは?
次世代e-POWERは、現行e-POWERから大幅に進化を遂げたシステムです。1.5L直列3気筒エンジンを搭載し、VCターボは非搭載となっています。エンジン効率の向上(熱効率39%→42%)や、モーターの改良により、燃費が15%向上しました。よりEVに近い滑らかな加速と静粛性を実現しています。
現行e-POWERとの違い
次世代e-POWERは、初代e-POWERと比較して燃費が20%向上し、コストも20%削減するなど、大幅な性能向上を実現しています。特に高速走行時の燃費については、第2世代e-POWER比で15%改善しています。これにより、欧州においてトップクラスの燃費を実現し、米国でも大幅な燃費改善を達成する見込みです。
次世代e-POWERの特長
- エンジンの効率化: E-POWER専用に設計することで、効率を最大化。低回転域を捨て、燃費の良い範囲に特化。
- モーターの効率化: SICを使用したインバーターを採用するなど、モーター自体の効率も改善。
- 燃費向上: エンジンとモーターの効率改善により、燃費が15%向上。
- 静粛性の向上: 現行モデルに比べて静粛性も向上。
- 走行性能の向上: モーターの出力がよりスムーズになり、加速時の力がより強く感じられる。
- その他: エンジン音がより静かで、走行中の上品さが増している。
今後の展開
新型ローグやエルグランドなどの国内大型ミニバンへの搭載が予定されています。実燃費でライバル車と競える可能性を秘めており、日産の電動化戦略における重要な技術です。
搭載予定の車種
- エルグランド フルモデルチェンジ モデル
- ローグ・エクストレイル 改良モデル
- キャシュカイ 改良モデル
日産e-POWERの仕組み
日産e-POWERは、「シリーズハイブリッド方式」と呼ばれる独自のシステムを採用しています。その最大の特徴は、エンジンは発電専用であり、走行は常にモーターの力のみで行う点です。
- 発電: エンジンは、ガソリンを燃料として発電機を回し、電気エネルギーを生成します。この時、エンジンは最も効率の良い回転数を保つように制御されます。
- 電力供給: 生成された電力は、バッテリーに充電されるか、直接駆動用モーターに供給されます。
- モーター駆動: バッテリーに蓄えられた電力、またはエンジンが発電した電力を使って、高出力のモーターが駆動輪を回し、車両を走行させます。
- 回生ブレーキ: 減速時には、モーターが回生ブレーキとして機能し、運動エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリーに充電します。
e-POWERの走行感覚は、電気自動車(EV)に非常に近く、アクセル操作に対するレスポンスが良く、滑らかで静かな加速が特徴です。エンジンは主にバッテリー残量が少なくなった時や、より大きな電力が必要な時に作動しますが、その作動音は極力抑えられています。
トヨタ・ホンダのハイブリッドシステムとの違い
トヨタとホンダは、日産e-POWERとは異なる方式のハイブリッドシステムを採用しています。
1. トヨタのハイブリッドシステム(THS / THS II)
トヨタのハイブリッドシステムは、「シリーズ・パラレル方式」または「スプリット方式」と呼ばれる方式です。
- エンジンの役割: エンジンは、走行の動力源となるだけでなく、発電も行います。
- 動力伝達: エンジンとモーターの動力を、プラネタリーギア(遊星歯車機構)などを介して効率的に分配し、走行状況に応じてエンジン、モーター、または両方を駆動輪に接続します。
- 特徴:
- 幅広い走行状況に対応: 低速から高速まで、最も効率の良い方法でエンジンとモーターを使い分けます。
- 燃費性能の高さ: 高度な制御により、優れた燃費性能を実現しています。
- EV走行も可能: 短距離であれば、モーターのみでの走行も可能です。
2. ホンダのハイブリッドシステム(e:HEV)
ホンダのe:HEVは、基本的にはモーター駆動を主体とする「シリーズハイブリッド」に近いシステムですが、高速巡航時にはエンジンが直接駆動する「パラレルハイブリッド」の要素も取り入れた、独自のシステムです。
- 低・中速域: モーターのみで走行し、エンジンは発電に専念します。
- 高速巡航時: エンジンがクラッチを介して直接駆動輪を駆動し、効率の良い走行を実現します。
- 特徴:
- EVに近い走行フィーリング: 低・中速域では、モーターによる滑らかで力強い加速が特徴です。
- 高速燃費の向上: 高速走行時はエンジン直結により、燃費効率を高めます。
- 静粛性: モーター走行を基本とするため、静粛性が高いです。
ハイブリット方式 比較表
特徴 | シリーズ式 | シリーズ・パラレル式 | e:HEV |
---|---|---|---|
主な動力源 | モーター | エンジン、モーター | モーター、エンジン |
エンジンの役割 | 発電専用 | 走行、発電 | 主に発電、高速時走行 |
モーターの役割 | 走行 | 走行補助、回生発電 | 主に走行、回生発電 |
特徴 | EVに近い走行感、静粛性が高い、高速燃費はやや劣る傾向 | 幅広い走行状況に対応、高い燃費性能、EV走行も可能 | 低・中速はEVに近い走行感、高速燃費も考慮、静粛性が高い |
代表的なメーカー | 日産 (e-POWER) | トヨタ (THS/THS II) | ホンダ (e:HEV) |
このように、各社のハイブリッドシステムは、それぞれの設計思想に基づいて異なる特徴を持っています。日産e-POWERは、EVのような運転を重視する一方、トヨタとホンダは、燃費性能と幅広い走行状況への対応力を重視したシステムと言えるでしょう。
編集部から一言
次世代e-POWERは、初代モデルからの大幅な燃費向上とコスト削減に加え、特に高速走行時の燃費性能が向上し、グローバル市場での競争力強化が期待されます。今後の日産の電動化戦略において、その役割はますます重要になるでしょう。日産の業績は厳しい状況にありますが、電動化技術への投資は継続されており、今後の展開が注目されます。
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